天神山滞在ブログTenjin_blog

天神山関連アーティストの活躍をめぐる旅【東京篇】

2023/02/25

もうすぐ開館10年目を迎えるさっぽろ天神山アートスタジオでは、これまで多数のアーティストやアート関係者が活動を展開してきました。滞在制作のみならず、当館主催事業に審査員などのかたちでかかわってくださった方もいらっしゃいます。

ふだんはそうしたアーティストの皆さんがはるばる北海道の山の上まで足をのばしてくださいますが、やはりときどきは、スタッフのほうが天神山を飛び出し各地での皆さんのご活躍を拝見してみたい…… ということで、今回は天神山アーティスト関連の展示巡り【東京篇】をお送りします!

 

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荒木悠 大木裕之

@恵比寿映像祭2023(東京都写真美術館)

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荒木悠《仮面の正体(海賊盤)》

大木裕之《meta dramatic 劇的》

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2009年にはじまった恵比寿映像祭は、「展示、上映、ライヴ・パフォーマンス、トーク・セッションなどを複合的に行なってきた映像とアートの国際フェスティヴァル *1」です。今年は「テクノロジー?」をテーマに、作家数名の特別上映やコミッション展示等のプログラムが15日間にわたって展開されています。

荒木悠さん(2018/19滞在、2020年度国際公募プログラム審査員大木裕之さん(2020年滞在は、同祭から制作委嘱を受け、都写美にて作品展示を行っています。17日には、全委嘱作品のなかから荒木さんの《仮面の正体(海賊盤)》と金仁淑さん《Eye to Eye》に特別賞が贈られました。

また、実見はかないませんでしたが、同祭では25日のスペシャル・トークセッション「カメラの自動化による創造のパラダイムシフト——オートメイテッド・フォトグラフィを参照点として」に、キュレーターで批評家の四方幸子さん2017年度国際公募プログラム審査員も登壇していました。

比較的ゆったり鑑賞できたので、荒木さんと大木さんの作品について少しだけレポートします。

 

 

荒木さんの《仮面の正体(海賊盤)》では、展示室の天井に届きそうな巨大LEDパネルの裏表にそれぞれ異なる実写映像が流れています。KISSのコピーバンドで京都拠点のWISSを、パネルの一面ではステージ上で、もう一面ではヘアメイク中の楽屋といった舞台裏で、カメラが追いかけます。音声はメンバーからの聞き取りなど舞台裏の音のみで、演奏は流れません。いわば口パク状態のライブ映像が、壁にかけられた本家KISSのアルバム『仮面の正体』(原題:Unmasked)のジャケットに向かって、ぎらぎら発光します。空間配置は、入口→壁面の『仮面の正体』→音声なしライブ映像(パネル表)→聞き取り音声と連動する舞台裏の映像(パネル裏)→鑑賞椅子→出口、という流れで、鑑賞者がLED裏面の映像を座って観られる向きで椅子が置いてあるので、アルバム『仮面の正体』といちばん対極で(しかしアルバム自体を物理的には見通せないような空間配列において)対峙しているのは鑑賞者、ということになるでしょうか。

大木さんは、ファー的なもので囲ったスクリーンに映像作品《meta dramatic 劇的》を流しつつ、その手前で映像の内容に呼応するようなライブパフォーマンスを行っていました。映像では、異なる場面で撮影された大木さんのパフォーマンス記録が、透過レイヤーで重層的に示されていました。そこへ現場の大木さんが、「めいめつ、めいめつ」という映像内の発話をなぞるように「めいめつ!めいめつ…」と声を発しつつ、スクリーン方向に体や手を伸ばしてさまざまな動きを繰り出します。この動きはおそらく、画面内を目指す没入の手つきではなく、画面上のイメージを実空間側にほんのすこしひっぱり出してくるための契機になっていたと思います。動く発光イメージに、手掴みできる泥のようなテクスチャを感じました。

 

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石垣克子 進藤冬華 潘逸舟 

@ 六本木クロッシング2022展:往来オーライ!(森美術館)

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★ 石垣克子 《辺野古・大浦湾》ほか

★ 進藤冬華 《そうしてこれらはコレクションになった》ほか

潘逸舟《声》

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六本木クロッシングは、「森美術館が3年に一度、日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として、2004年以来共同キュレーション形式で開催してきたシリーズ展 *2」です。2022年度の企画は、天野太郎さん、レーナ・フリッチュさん、橋本梓さん、近藤健一さんが担当しています。

計22120点の作品が並ぶこの大規模な展覧会では、石垣克子さん2014年滞在進藤冬華さん(2021年「Art Breakfast Day with 天神山」参加2021年度AIRプログラム・島袋道浩との「アートとリサーチ・ツアー」ワークショップ参加潘逸舟さん(2016/2020年度AIRプログラム招聘)の作品をみることができました。

 

 

どの展示もとてもすてきでしたが、ひとつ忘れられないのは、ある来場者が進藤さんのキルト作品手前に用意された椅子に綿入りのぬいぐるみを座らせて、作品と一緒に写真におさめていた場面です。素材としては同類質であるはずの物質が名づけによって立場を変える、まさにその瞬間が記録される現場をみた気がして、反射的に背筋が伸びました。

それぞれの作品/展示について詳しくは、六本木クロッシング企画者のみなさんが執筆された公式図録をご覧いただくのがおすすめです。また、森美術館公式flickrから一部展示の記録写真をみることができます。

 

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アレクサンドル・カトー

@ 美学校 TANA Gallery bookshelf

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アレクサンドル・カトー「間に住む」

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2022年度国際公募プログラムの招聘アーティストの一人で、滋賀拠点の松延総司さんと組みSCARTSで展示を行ったアレクサンドル・カトーさん2022-23年滞在。美学校の本棚の一段を使ったささやかな展示スペース(幅85 x 高さ30 x 奥行15 cmに、独自の庭空間を展開していました。

 

 

直接は関係ないですが、展示を拝見した日、美学校では三田村光土里さんの講座がひらかれていました。三田村さんには、天神山アートスタジオでアート&ブレックファストDayをはじめた2014年以来お世話になっています。三田村さんの講義音をバックにカトーさんの「間に住む」を観る……。なかなかない巡りあわせに驚く昼下がりでした。

なおカトーさんの作品については、TANA Galleryの公式ウェブページにて大変詳細に紹介されています。読み応えばつぐんですので、ぜひご確認ください。

 

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マフブーベフ・カライ ボリス・ラベ

@ 文化庁メディア芸術祭25周年企画展

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★ マフブーベフ・カライ「The Forth Wall

★ ボリス・ラベ「Rhizome

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つい先日まで天神山に滞在していたマフブーベフ・カライさん(2023年滞在と、地下鉄さっぽろ駅構内〈ミナパ〉で《SIRKI》が現在上映されているボリス・ラベさん2018年滞在。お二人はともに、文化庁メディア芸術祭(以下「メ芸」)のアニメーション部門で大賞を受賞した経験を持つ、気鋭のアニメーション作家です。

メ芸は「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」として、1997年以来、各国から多様なメディア作品を公募選出してきました。2023年以降の公募選出停止を前に催された今回の大規模展示は、過去25年間のメ芸の受賞作が一堂に会する総括的な企画とみることができます。

かなりストイックな制作工程を経て提出されたマウーさんの《The Forth Wall》(第25回・2022年受賞)とラべさんの《リゾーム》(第19回・2016年受賞)からは、そこはかとない実直な存在感が伝わってきました。

 

 

実は両者には、(おそらくそれぞれの作品にとってもまた重要な点において)共通する、「あるものがもぞもぞうごめくと次の瞬間別のものになっている(ようにみえる)」という不思議な変化の動きが、連続して何度もみられます。しかも、ふだんは別の種類の存在としてはっきり線引きされがちな、人間(らしきかたち)とそれ以外のものも、等しくこの変化の対象となります。きわめて現実的な主題を別様にみせてくれる契機としてのそうした「よくわからないうごめき」、観る者の目にひっかかる微動に、アニメーションの魅力を発見した気がしました。

 

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*1 ...... https://www.yebizo.com/jp/information より

*2 ...... https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/roppongicrossing2022/ より

 

(スタッフ 五十嵐)