天神山滞在ブログTenjin_blog

【レポート】アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido vol.02

2023/03/08

1月22日(日)に、札幌市市民交流センターの2階にあるSCARTSスタジオで、北海道内のアーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)に関わっている団体や個人のトークイベントをオープンミーティングという形で開催しました。

天神山では2020年度から、北海道各地でアーティストをサポートする団体や個人とのネットワーク作りにちからを入れてきました。新型コロナウイルスのパンデミックの最中に行った第1回のミーティング(オンライン)では、北海道で滞在制作を考えている、場所を探しているアーティストのために、「北海道内の滞在制作の拠点をリストアップした資料を作成する」というプロジェクトとして稼働することを決めました。

第1回ミーティングに参加した団体のインタビュー動画をこちらから見ることができます。

第1回 北海道地域のAIRネットワーク構築のためのミーティング 「アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido」

 

そして今回、SCARTSとの共同企画で【SCARTSラーニングプログラムvol.003 × さっぽろ天神山アートスタジオ 北海道AIRミーティング「アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido」】というタイトルで、第2回の道内AIRミーティングを開催しました。第1回のミーティングから2年間で構築した道内ネットワークのみなさんに声をかけ、これまでアーティストとどんな活動をしてきたのか、またこれからどんなアーティストに来て欲しいかなど、ざっくばらんにお話しする機会となりました。

<スピーカー(登壇者)>

ヒミツキチこひつじ(斜里町)

アートラボ北舟(豊頃町)

当別アーティスト・イン・レジデンス(当別町)

みる・とーぶ(岩見沢市)

清水沢プロジェクト(夕張市)

ツキガタアートヴィレッジ(月形町)

アーティスト・イン・レジデンスあさひかわ(旭川市)

 

<モデレーター(進行など)>

小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)

 

第2回のミーティングに参加した団体は7団体。第1回目以降、新たにツキガタアートヴィレッジとアーティスト・イン・レジデンスあさひかわの2団体が加わりました。

会場のある札幌市内まで遠方の斜里町からは車で片道6時間、豊頃町からは4時間の道のりです。さらにこの日は吹雪!
当別町、夕張市、岩見沢市、月形町、旭川市…どこも豪雪地帯です。悪天候の中、道内各地からみなさん無事で、本当によく集まってくださいました!感謝です!!

ミーティングを聞きに事前申し込みの方だけでなく、当日興味を持って来てくださる方も多くいらっしゃいました。その中には以前天神山アートスタジオに滞在したことのあるアーティストもいました。次のレジデンス先を探していて、道内の情報を知る為に聞きに来たとか!まさしくこのミーティングがやろうとしていること!

道内のAIR拠点、団体同士のネットワーク作りを兼ねたこの公開ミーティングですが、早速アーティストの滞在先探しの役に立ったようです。

どんなミーティングだったのか。来場者の成田真由美さんから報告リポートをいただきましたので、是非最後まで読んでみてください。また、来場者アンケートにも色々な声をいただきましたので、紹介させていただきます。

今後も、道内にあるアーティスト・イン・レジデンスの拠点とネットワークを繋いでいきます。こんなところあるよ!ここなんかどう?という情報をお持ちの方は是非、さっぽろ天神山アートスタジオまで教えてくださいませ!

 

それでは、レポート本編です。どうぞ!



アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido

成田 真由美

 

AIRで滞在したアーティストが成果を発表する機会(作品展示やトーク)はそこそこありますが、アーティストを受け入れる側のお話を伺えることって結構ないもの。しかも、全道域から集まってくれるってスゲー!というわけで、行ってきました「アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido」のご報告。

アーティスト・イン・レジデンス(Artist In Residence 略して「AIR」)とは、アーティストが何処かに滞在して、あれこれしたりしなかったりすること。と、個人的には解釈している。ちゃんとした説明は、美術手帳がわかりやすいと思うのでリンクを参照のこと。

https://bijutsutecho.com/artwiki/17

 

会場前方には大きなモニターが設置されていて、スピーカー(登壇者)も来場者席の最前列にモニターに向かって座るというレイアウト。登壇者は発表の時にモニター横に移動するのかな?と思いながらいい席を陣取ったら、突然公開打ち合わせが始まった。登壇者の後ろで聞くとはなしに聞いていたら、トーク本編も着席したまま話すことを想定されていて、来場者にお尻を向けた格好になるシステムらしい。流石にそれは…と、登壇者の方々がいろいろ工夫するという、試される現場の様相を呈していて面白い。そしてそのまま、ぬるっとした感じでスタート。意図したわけではないと思うが、このゆるさが会場の緊張感を解いてくれる。私的には、いい感じ。

最初は、さっぽろ天神山アートスタジオを管理しているAISプランニング代表の漆崇博さんからの挨拶。代表だけオンラインとのことで、前方の大きなモニターに映し出されるのかと思いきや、まさかのノートPC手持ち。登壇者も来場者もこらえきれない笑いに耐えて、撮影会が始まる。代表が、なんかいいこと言ってるみたいだけど、なにも入ってこないよ()


[ノートPCにカメラを向ける登壇者の方々]

 

モデレーター(進行や仲介をする役割)の小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)さんから、登壇者の紹介とAIRの歴史をざっくりと説明。17世紀に欧米から始まったAIRの源流から、日本では独自の発展(空き家対策との結合)を遂げたこと、更に現在進行形で変化(地域おこし協力隊のAIR)し続けていることなどが報告される。自称「AIRのオタク」として名を轟かせてきた彼女らしい要点を押さえた的確な説明。彼女は、アーティストが自分が住んでいるところとは違う場所で面白いプロジェクトをしたい、というとてもシンプルな動機に呼応していると言っていた。なんか、わかる気がする。シンプルな欲望は強いからね。そして、その経過と結果を観れるのは、とても面白い。まるで中毒。

 

7団体のAIRはそれぞれ特色があり、「AIR」と一括りにするのが憚れるほど。AIRのアーティストを募集するのか、受け入れ団体から声掛けするのか、滞在期間や成果報告(作品展、トークなど)の有無、予算(アーティストの移動費、滞在費、調査費、製作費、その他諸々生活費。受け入れ側の拠点管理運営費、スタッフの給金など)やサポートの内容も様々千差万別。共通した課題は、「予算」。潤沢な資金があれば良いというわけでもないけど、関わる人々の善意だけでは続かない。滞在すればお金がかかるし、滞在だけすれば良いってわけじゃない。

ただ、各団体の方向性や濃淡はあるものの地域との関わりを強く意識しているように感じた。作品制作や調査のために来たアーティストだけでなく、それを受け入れる地域住民もなにかしらの影響を(良くも悪くも)受けることは必至であるからだと思った。関係するみんながより良い変化を享受できるよう、受け入れ団体は心を砕いているのだろう。

小田井さんが公開打ち合わせで「レジデンスは誰のため?」という問いを立てていたが、その答えらしきものが沢山散らばっていたトークだった。地域にアーティストという異物が入り込むことによって、当たり前の風景が今までとは変わって見えたり、新しい価値に気付いたりすることもある。変わらない安定より、変化を楽しむ自分でありたいと思った。なんてね、少しかっこいいこと言ってみた。

 

以下、各団体からそれぞれのAIR紹介をざっくりとまとめてみた。アート界隈独特の言い回しは、勝手に言葉を置き換えた。過不足あるだろうから、補足として各団体のホームページなどの情報も追加しておく。各団体は、それぞれ悩みながら試行錯誤を繰り返してここまで来た。正解のない世界で、迷うことすら楽しんでアーティストと地域住民と歩んできたのだろう。なんか、いいね。


  • ヒミツキチこひつじ(斜里町) 「地元にアーティストを受け入れる環境が自然と整っている」

登壇者:中山 芳子(Nakayama, Yoshiko)

「マイクロ・レジデンス」と称していたが、もともと「空いている建物+動ける仲間」でアーティストのサポートを個人レベルで小さく続けてきたとのこと。しかし、拠点がないのがどうにも不便だったので、商店街の空き店舗を改装して、薪窯パン(食べたことがあるけど、本当に美味しい!)、うどんと甘味、おにぎりのお店が出店する、本の並んだコミュニティスペースを開設(2022年オープン)。その2階をレジデンス・スペース(宿泊可)としたとのこと。

ここでのAIRは、アート好きだけが集まるスペースではなく、地域の多様な方々が集ってあれこれしている場所に、アーティストが滞在することになる。この形が、お互いに影響し合い、新しい何かを生み出す場になっているような気がした。こひつじさんは、アーティストに「地域のために」とあれこれ求めすぎず、でも負担にならない程度でトークやワークショップを開催して、地元の方々との交流の機会も設けているとのこと。「お金じゃない意味でWINWINになれたらいい」と言っていた。また、斜里まで来るアーティストは目的がはっきりしていることが多く、訪ねるべき相手をその場にいた誰かが紹介してくれることもあるらしい。いろんなものが循環している感じでいいね。

 

ヒミツキチこひつじの情報発信は、TwitterInstagram
https://twitter.com/kohitsuji_shari
https://www.instagram.com/kohitsuji_shari/

しかし、私はそのどちらもやっていないのでHOKKAIDO LIKERSの記事を。
https://hokkaidolikers.com/shop/59232

第1回ミーティングのインタビュー動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=LD4iVv43Byo&feature=youtu.be

 


  • アートラボ北舟(豊頃町) 「地域の方の眠っている才能を開花させたい」

登壇者:白濱 雅也(Shirayama, Masaya)白濱 万亀(Shirahama, Maki)

2014年に東京から十勝に移住してきたアーティスト夫妻が運営するギャラリーでのAIR(北舟さんはAIRと言えるのか微妙だと言っていた)。「展示企画バカ」と称するほど、企画展をするのが好きとのこと(豊頃町に移住してからも、年に23本は主催)。自分が気になるテーマで、他のアーティストはどんな作品を作るのだろうと思うと、観たくて観たくて欲望が抑えられないと言っていた。そして、企画展のためにアーティストが来訪し、北舟さんの自宅にショートスティ(中には1カ月ほど滞在したアーティストもいたそう)+アーティストが気になる場所へのアテンドという、プライベートな感じでAIRを実施してきたそう。募集はせずに北舟さんから声掛けをして、これまで40人ほど受け入れてきたとのこと。アーティストがアーティストを受け入れるという形で、企画展のためのAIR。しかし、声をかけるアーティストは兼業で作家活動をされている方も多く、滞在期間を確保するのも大変らしい。それでも、声を掛けた方の半分ほどは参加してくれるそう。

現在は「えらぶLab.(詳細はリンク先のFB)という、空き店舗をリノベーションした草の根コミュニティ活動を中心としつつ、その他の企画も進行中とのこと。北舟さんも、どんどん変化し続ける感じで面白いなぁ。

 

情報発信はFBがメインっぽい
https://www.facebook.com/ArtLaboKitabune/

YouTubeチャンネルもあった
https://www.youtube.com/@todocast6045

プロモーション動画
https://www.youtube.com/watch?v=t98C-TzVywA

 


  • カネヨよねぐち呉服店 by当別まちづくり株式会社(当別町) 「アーティストが『外から来てなんかやって居なくなっていく人たち』にならないように(思われないように)調整するのも大事」

登壇者:辻野 浩(Tsujino, Hiroshi)、佐藤 たつ(Sato, Tatsu)、寺西 翔子(Teranishi, Shoko)

商店街の空き店舗対策から始まった、商店街活性化をミッションのひとつとする株式会社が行うAIR2020年秋、商店街にある空き店舗(元服飾店)を改装し、まちづくり・情報発信拠点「カネヨよねぐち呉服店(よねぐちさん)」を開設。ここを拠点として、展示やワークショップなどを開催している。よねぐちさんには、アーティストのためのシェアオフィス(使用料はアーティストが支払う)があり、空きがあれば随時募集する(滞在はアパートなどを紹介)。よねぐちさんは、いわゆるAIRとはちょっと違うのかも?と言っていたが、そもそも「AIRとはこれだ!」がぼんやりしてるから、いいんじゃないかと思う。ってか、アートって型にはめられないものだし。

AIRを機として当別町に移住したアーティスト2名は、現在も地元で様々な活動をしていて、よねぐちさんはその活動サポートも行っているとのこと。サポートは、その活動が地元にとってどうか?という視点で判断することが多いとのことで、中学部活動の地域移行で、アーティストを美術部に派遣したり、地元の伝統行事である吊るし雛とアーティストの作品を一緒に町のあちこちに飾るなどの広がりも作ってきたとのこと(詳細はホームページ、SNSなどで)。アーティストと地元の方との意識上の齟齬が起こることもあるので、その翻訳的な調整も担っているそう。これも一種の異文化理解だね。よねぐちさんは、アートが近いまちづくりを行っている感じで楽しそう。

 

カネヨよねぐち呉服店(よねぐちさん)のホームページ(各種SNSのリンクあり)
https://yoneguchisan.space/

当別まちづくり株式会社のホームページ
https://tobetsu.jp/

第1回ミーティングのインタビュー動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=cDqV5_7Ah1o

 


  • 清水沢コミュニティゲートby一般社団法人清水沢プロジェクト(夕張市) 「アーティストと地域住民がお互いを尊敬しあえる関係を築く」

登壇者:佐藤真奈美(Sato, Manami)

夕張で「何かをしたい」方々の拠点として「清水沢コミュニティゲート」を元北炭の社宅に開設。地域住民の拠り所であると同時に、外部者に対する入り口となっている。住民の生活の場に入り込むのだから、アーティストには「地域の一員である」という意識で滞在することが必要とのこと。この意識が持てない方はレジデンスをお断りし、地域を守るために門(ゲート)を閉ざすこともある(門番として地域を守る役割もある)。アーティストのわがままをどの程度まで受け入れられるか、日々悩みながら活動しているとのこと。でも、外からくる方々と共に歩んで地域を作っていくことが大事だと言っていた。豪雪地帯でのAIRは、アーティストが雪かきを行うこともあるそう。世界1過酷なAIRかも、と笑っていたのが印象的だった。

コミュニティゲートさんは、地域ごとエコミュージアムであるという博物館学の考え方を踏襲したまちづくり構想を実践しているとのこと。実際に、解体が始まった旧北炭清水沢火力発電所で行った2011年のアートイベントでは、所有者がその価値を再認識し、残りの1/4を保存活用すると方針変更したことがあり、現在もガイドツアーを行っている。アートの力が発揮された事例である。

尚、トーク会場の真下(1F)で開催されているAIR報告作品展に使われている石炭の入手には、コミュニティゲートさんが協力をしている。夕張で現在も採炭されているプラントから石炭を入手してくるとは、石炭を入手できない現状にあっても地元は強いね。これもコミュニティゲートさんが、地元に根付いた活動を続けて信頼を得ているからだろう。

 

清水沢プロジェクトのホームページ(清水沢コミュニティゲートのコンテンツあり)
https://www.shimizusawa.com/

第1回ミーティングのインタビュー動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=oeyMApf3YuE&feature=youtu.be

 


  • みる・とーぶ(岩見沢市) 「地元の声に応えて、雪止め板に絵を描く」

登壇者:來嶋 路子(Kurushima, Michiko)、笠原 将宏(Kasahara, Masahiro)

 旧美流渡中学校を拠点としギャラリースペースを設置、市から地域案内や移住支援業務の委託を受けながらAIRを行う。もともと炭鉱の町で、それぞれのエリアに1万人もいた人口は美流渡300人、万字では70人にまで減り、閉校になった小中学校の校舎の窓に打ち付けられた雪止め板が、地域に寂しさを漂わせていたそう。そこで、みる・とーぶさんのメンバーであり美流渡に移住してきた作家のMAYA MAXXさんが、その雪止め板に絵を描くことにした。この制作期間は、地域住民が自主的に様々な協力をしてくれたそう(草刈りや食事の差し入れなど)。このことが、みる・とーぶさんが地域に受け入れられることになったきっかけだとお話されていた。その後、岩見沢市からコミュニティバスのラッピング・イラスト制作依頼や、地元企業が市民とのつながりになればと看板制作の依頼が。このコミュニティバスは乗車率が上がり成功例として全国から視察が来ているそう。そして彼女は、地元企業の工場の壁に、みんなが観れるようにと高さ10mの大きなクマを描いた。町中に絵画が溢れて、人を繋いでゆく様は、なんか素敵。

みる・とーぶさんは、AIRでリサーチにくる海外のアーティストが、地元住民に誰だかわかるようにと自己紹介的な展覧会を企画したそうだ。つまり、アーティストが滞在する前に展覧会を開催したということで、これはあまり聞いたことがない。なんかいろいろと大変だったと楽しそうにお話しされてたのが印象的。これまで行った4回の展覧会で来場者は5,000人になったそう(地域人口300人なのに!)。

 

みる・とーぶのホームページ(活動の詳細はFBへとのこと&MAYA MAXXさんの活動の記録はマガジンハウスでアーカイブされている)
https://mirutobuproject.localinfo.jp/

第1回ミーティングのインタビュー動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=zqkTO5UwhcU&feature=youtu.be

 


  • ツキガタアートヴィレッジ(月形町) 「アートで繋ぐ明るい過疎化」

登壇者:荒井 純一(Arai, Junichi)、久保 奈月(Kubo, Natsuki)

お米の美味しい、人口3000人弱の月形町で2006年に閉校になった知来乙(ちらいおつ)小学校を、クラウドファンディングで資金を調達してギャラリーにリノベーションしたことから始まったらしい。ツキガタアートヴィレッジは2022年にオープンし、これから教室を改装したアトリエの入居者を募集するとのこと。しかし既に、月形温泉に滞在し、体育館を使って大型作品の制作を行ったアーティストも(発表は札幌市内。札幌市と月形町は車で1時間程度なので制作アトリエとしても便利)。「何もかも手探りで」と戸惑っている様子だが、運営団体にはまちづくりプランナーやアートスクールの運営も行う中堅アーティストも参加しているので、堅実な布陣である。過疎化対策をアーティストができるわけではないが、地元には立ち寄れる場所としての選択肢を、アーティストにはのびのびと制作できる環境を、そして町外の方には通過する町からわざわざ立ち寄ってもらえる魅力的なアートヴィレッジを目指すとのこと。人がいなくなって寂しくなった風景に、アートの力で明るさを取り戻すことはできそう。

小学校の外装も赤白からシルバーに塗り替えて、アートギャラリーとアトリエ貸出の他にも体験型アート教室を開催している。町民がアートを身近に感じられるような、アーティストと町民が一緒になって作るアートプロジェクトも行いたいと語っていた。彼女流の地域への恩返しが、仲間の力を借りて始まった感じ。いいね。

 

tsukigata_art_village(Instagram
https://www.instagram.com/tsukigata_art_village/?hl=ja

月形町に新たなアート複合施設「ツキガタアートヴィレッジ」が誕生:アートアラート記事
https://artalert-sapporo.com/features/post/49

 


  • アーティスト・イン・レジデンスあさひかわ(旭川市) 「AIRは恩返し」

登壇者:のむら パターソン 和孝(Nomura, Paterson Kazutaka)

旭川市議会議員を務める野村パターソンかずたかさんの呼びかけによりスタートした。議員らしい語り口で、「まちづくりの観点から芸術は経済効果を計りづらいが、地域のコミュニティや観光、経済、教育など様々なものを横串で刺せる存在であり、生活を支える共通要素であり、政治で救えない方々を救う要素になる。」と言っていた。「まちづくりとはコミュニティになること」とも言っていたので、そのきっかけとしてAIRを活用しようという感じなのかも。説得力のある論調とか経済効果とか横串で刺すとか、概念的なアート界隈もしくは語らずに語るアート作品の中で、異彩を放っていて面白かった。

彼らは、旭川市内で売りに出ていた3階建ての元印鑑屋を買い取り、昔シアトルで野村さんが友人と運営していた前衛音楽スタジオ「ギャラリー1412」を彷彿とさせる活動拠点「VKTR(ヴィクタ)」を開設した。1階にギャラリー、2階に滞在スペースがある。滞在費は無料。誰でもウェルカムとのこと。

現在まで、アメリカのジャズ・ピアニストの音楽ライブや旭川駅前の歩行者天国でのパフォーマンスなどを行ってきた。施設内で行うより、まちなかを使う方が許可申請などで大変だったけど、開かれた空間(公共空間)で行うことは意義があることだと言っていた。2022年は、旭川市が「ユネスコ創造都市ネットワーク」へのデザイン分野に加盟(2019年)したことにより実施した「あさひかわデザインウィーク」の一環として、ギャラリーカワバタ(古民家改装ギャラリー)とタイアップしてAIRを行った。

 

〈アーティストインレジデンス あさひかわ〉元ミュージシャンが故郷につくったカルチャーの拠点〈VKTR〉:マガジンハウス記事https://colocal.jp/topics/lifestyle/renovation/20210330_140108.html

 


 

おわりに、モデレーターの小田井さんから、AIRは、地元とアーティストがお互いに影響し合うはずなのに、北海道美術史には残らないことが気がかりだと問題提起があった。それで各団体のアーカイブの残し方を共有することになった。それぞれ、ホームページでの告知がアーカイブとなっていたり、外部のWEBページでアーカイブされているメンバーのアーティストがいたり、現物を拠点に保管していたりと様々。そこで、北海道域での一元化はされていないので、投稿サイトを作りたいと小田井さんから提案があった。北海道という広大で特殊なエリアのAIR情報が全国どこからでもアクセスできるようになるのは面白いと思った。現在も、北海道新聞社の記者が個人で開設しているアート情報ブログをリスペクトした、アートイベント告知サイト「ART AleRT(アートアラート)」が運用されていることも共有された。そして、AIR運営者の視点で、調査・研究を行い収集された情報のデータベースとして構築した「アートとリサーチセンター」についても紹介があった。

アートに関わっている・いないに関係なく、アーティストと直接接することが多いAIRは、地元にとって興味深い効果を生むことがある。ただし、地域特性を知らないアーティストが闇雲にまちに出ても得るものがないだけでなく、迷惑行為にもなりかねない(実際、そんな事例は少なからずある)。AIR受入団体は、地元との接点であり、緩衝材でもあるんだなぁと、考えながら聞いていた。AIRが生み出す「良い効果」はそれぞれに違うだろうけど、何かしらの変化はあるだろう。その記録が残らない(分散している)のは、もったいないなぁ。記録を残す・まとめることで、助成金などの額が増えたり、資金調達がうまくいくような循環が作られればいいなと思った。世知辛い話だが、資金不足は全団体共通の悩みだったからね。

 

ART AleRT
https://artalert-sapporo.com/

アートとリサーチセンター
https://aarc.jp/

 

(文:成田 真由美)



【来場者からの声】

広い道内各地からお越しくださり、文字通り個性に富んだレジデンスの場所と形をたくさん聞かせていただいた皆さま、そして企画してくださった小田井さんと天神山の皆さま、ありがとうございました。 滞在制作発表の場が一体化しているところと分散型のところ、受け入れにあたってのスタンスなど、作家の意思と意図と充分に噛み合う場所との出会いのために、これからもより広く情報を集められるような機会をぜひ作っていただければと思います。(Y.U)

活動の立ち位置が事業なのか街興しなのか、さもなくばボランティアなのかによって取り組みの課題や満足度は大きく変わってくると思います。アーティスト・イン・レジデンスをやる目的や意義をどのように捉えているのか、既に議論されていたのかもしれませんが、今回初めて聴かせていただいた者としては最初の出発点がよく分かりませんでした。(H.I)

スピーカーさんのトークが後ろ向きで聞きづらかった。(S.K)

具体的なお金の話にも興味があったがまたの機会に。中山さんの地に足のついた発言に励まされたし、レジデンスの具体的な様子が想像できて有意義だった。白濱さんの話はわかりやすかった。スピーカーによっては背を向けて話していたため声の通りや表情が伺いづらく残念だった。事業としての困難さが垣間見えた。 アーカイブ方法は、保存期間とか保守性とか物理的な制約とか使用用途とか、さまざまな側面から検討すべきテーマだなと改めて思いました。(Y.S)

 

【記事掲載】

2月4日(土)北海道新聞朝刊に、清水沢プロジェクトの佐藤真奈美さんがミーティングについて書いたコラムが掲載されました。

 

【イベント概要・資料】

SCARTSラーニングプログラムvol.003 × さっぽろ天神山アートスタジオ

北海道AIRミーティング「アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido

日時:2023122日(日) 1400-1600

場所:札幌文化芸術交流センター SCARTS 2F SCARTSスタジオ

主催:札幌市、さっぽろ天神山アートスタジオ / 一般社団法人AISプランニング

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市芸術文化財団)

支援:文化庁(令和4年度アーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業)

 

<スピーカー(登壇者)>

ヒミツキチこひつじ(斜里町)

アートラボ北舟(豊頃町)

当別アーティスト・イン・レジデンス(当別町)

みる・とーぶ(岩見沢市)

清水沢プロジェクト(夕張市)

ツキガタアートヴィレッジ(月形町)

アーティスト・イン・レジデンスあさひかわ(旭川市)

 

<モデレーター(進行など)>

小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)

 

<配布資料のQRコードのリンク先>

AIR受入施設をマッピングしたグーグルマップ
https://www.google.co.jp/maps/@43.0378653,141.3485944,13z/data=!4m3!11m2!2s8wI9pS7aT0SzVMp_EImrfg!3e3

2022.2.25アーティストの滞在制作の現場 AIR in Hokkaido
https://tenjinyamastudio.jp/report-air-in-hokkaido.html

2021.12.12札幌の制作現場を紹介する
https://tenjinyamastudio.jp/art-and-breakfast-day-with-tenjinyama-20211212.html

アーカイブ動画(YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-SPfm0WZ2fU