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【レポート】「なかなかたどりつかないけど」同時期滞在日本人AIR_ニュー浴場プロジェクト(永岡大輔)

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「なかなかたどりつかないけど」同時期滞在日本人AIR 途中経過レポート【永岡大輔】

2020年12月より故郷の山形市を出発し、北海道は夕張を目指し歩き続けていた「ニュー浴場プロジェクト」の永岡大輔さん。

600kmをゆうに超える歩行の末2021年3月7日、ついに夕張、そして天神山へとたどりつきました!

時を少し遡り、ここまでの長い長い道のりを追いかけてみましょう。

岩手県釜石市へ到着したのち、お正月のため一度帰郷していた永岡さん。年明けには再び釜石から夕張を目指すことになっていました。ところが、1月7日には首都圏を対象とした緊急事態宣言が発表されてしまいます。東北エリアはその対象ではありませんでしたが、念のため宣言解除が予定されている2月7日までは山形市内に留まることになりました。

そして、「歩きながら移動の意味について考えるということを、今自分がいる場所でやってみたい」という永岡さんの意思から、普段歩くことのない故郷・山形をしばらくの間歩いてみることに。

「意気揚々と家の玄関を開けたものの、どこに向けて歩けばいいのかわからない。」

この玄関から第一歩を踏み出した12月1日とはまったく異なる感覚。久しぶりの歩行に胸は躍っているはずなのに行き先が分からない。まるで自分の体だけが置き去りにされたようでした。ふと、歩行中に見かけた遡上できずに漂い続ける鮭と自分の姿が重なります。

永岡さんが選んだのは、毎日、家を起点に千歳山を登っては下りてを繰り返すこと。山形市民のシンボルと言われるこの山で出会うのは、登山が好きな人、健康を維持したい人がほとんどです。動機も装いも異なる奇妙な彼を故郷の山はどのように受け入れるのか。この山へ繰り返し通うことによって生まれた新たな交流や他の登山者からの眼差しを受け、山に登るとはどういうことなのだろう、と思考を巡らせていました。

こういう日常の亀裂みたいなことがあったから、山形を歩く事でも、夕張を目指す道中であり移動について考えられると感じられたのかも知れない。」と故郷での鮮烈な感覚を振り返ります。

(山形市内を歩いている時に知り合った若いアーティストからは後日絵葉書が届きました)

現地の空気感を伺いつつ、釜石へ戻ったのが2月11日。そこからは本州のゴール地点、青森県八戸市まで歩き通しとなりました。道中では舗装道を逸れ、みちのく潮風トレイルのコースを歩くことも。

動物から人間へ、四足から二足の歩行へと移ろう中で人間が獲得したのは「考える」こと、つまり技術です。技術によって拡張された身体は次第に肉体への依存を薄め、効率のよいモビリティの利用へと移っていく。いつか人間は歩かなくなるかもしれない。そんな未来を想像しながら、それぞれの手でポールを握り、未舗装の山道を往く。動物への遡行と移動の考察という矛盾を抱えながら、まだ遠い夕張へ思いを馳せます。

北海道へ渡り、大雪を避けながら夕張を目指す。コーディネーターの花田も合流し(待望の初対面!)、途中一日だけ一緒に歩かせてもらいました。慣れない長距離歩行でクタクタになりながらも、足は前へ前へと踏み出される。「歩くことは身体的に肯定することだ」という永岡さんの言葉が、疲れた身体に深く染み入ります。

栗山町と夕張市を結ぶ峠を越え、最後のトンネルを通過する。そして、ついに永岡さんは夕張へとたどりつきました。

「夕張は遠かった。」

夕張の知人たちと再会し、近況報告や冒険譚に花を咲かせた数日間。考え続けてきた移動の意味の答えはいまだはっきりとは出ていません。振り返ると、数え切れないほど多くの方々から多大なるご支援、ご協力をいただきました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。

 

幾度となく訪れたであろう夕張を3ヶ月以上もの月日をかけて徒歩で踏破する今回のプロジェクト。フライトの利用が前提となっていた永岡さんと夕張との身体的な距離感は、まったく異なる感覚へとアップデートされました。

今回の「なかなかたどりつかないけど」というAIRプログラムは、進化し続けるモータリゼーションへの抵抗から、「移動<滞在」という比重であったAIRの役割を「移動>滞在」へ転換し、アーティストにはフライトを使わずに移動してもらうという主旨で企画されたものです。蓋を開けてみれば、同じタイミングで新型コロナウイルスが世界中を席巻し、奇しくも時代性が色濃く反映された企画となりました。

移動手段が各アーティストに委ねられる中で、永岡さんは険しくも最も着実な手段である徒歩を選択しました。このプロジェクトで得られる移動しつづける感覚というのは、彼が進めている『球体の家』というプロジェクトにおいても重要な視点でした。常に移動する日々の中でいかに人と交流し、暮らしを循環させていくのか。そして、定住が前提となった社会で発達したモビリティは、移動し続ける暮らしの中ではどのようにシフトしていくのか。それらを確かめるためのプロジェクトでもありました。

レポートでは永岡さんにフォーカスしてご紹介してきましたが、今回は「ニュー浴場プロジェクト」として招聘したプログラムです。もう一人の松本 力さんは東京から出られない中、一体どんなプロジェクトを行なっていたのか。そして、夕張という一つの地域を巡り、二人のプロジェクトはどのように交差するのか。引き続きお知らせしていきたいと思います。どうかお楽しみに。

プロジェクトの記録は永岡さんが作成したWebページからご覧いただけます。年始からの記録は後日更新されます。
永岡さんの作成している記録(歩いている間にランダムに撮影された写真をみることができます)

永岡さん移動の足跡

コーディネーター 花田悠樹(さっぽろ天神山アートスタジオ)