天神山滞在ブログTenjin_blog

【滞在者紹介-Resident】是恒さくら_インタビュー(Part.2くま編)/ Sakura Koretsune_Interview [Part.2 Bear]

是恒さくらさんのインタビューPart.2 くま編です。

Part.1くじら編でも是恒さんの地道なリサーチの変遷をお話しいただきました。引き続き是恒さんの活動やこれからの予定をお伺いしました。
どうぞご覧ください。

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「北海道の熊はヒグマだけど本州はツキノワグマだから、葛巻町で作られた熊はどっちだったのかな、っていう疑問から」

―  ちょっと話が変わるんですけれど、以前から天神山アートスタジオの館内にテイクフリーで『木彫熊通信』というのが置いてあって、これも是恒さんがお書きになっているものですか?

是恒:そうですね。これは私と私の友人で画家の増子博子さんと二人で去年(2020年)から始めた活動です。増子さんが去年から岩手県葛巻町に住み始めて、彼女もいろんなその土地の昔話とか歴史とかを探るのが好きな人なんですけど、昔葛巻町で木彫熊が作られていたっていうことを郷土資料から知って。木彫熊っていうと北海道土産で有名で、北海道の熊はヒグマだけど本州はツキノワグマだから、葛巻町で作られた熊はどっちだったのかな、っていう疑問から。あとは、北海道にもそれが送られていたという情報があって、葛巻町って岩手県の北のほうでかなりの山奥で、どういうルートで北海道に行っていたのかっていうのも気になって。二人でいろいろ調べながら、あとは情報も集まるといいなという願いもこめて『木彫熊通信』として発行しているんです。

(『木彫熊通信』 第1号~3号)

 

―  そうそう、天神山では(第1~3号まであるうちの)第2号が売り切れてしまっていて。すごく読みごたえがあります。

是恒:場所によってどの号が人気なのかが結構まちまちで。私は割と北海道を行き来していたので北海道の話をエッセイのような寄稿文のような形で書いていて、増子さんは去年からずっと葛巻町にいるので葛巻で集めた情報とかを主に書いてくれていて。だから割と岩手県だと第1号とか、葛巻の情報が載っているほうがすぐ無くなって。1号と2号はそれぞればらばらに書いていたんですね。1号を増子さんが書いて2号を私が書いてっていう書き方をしていたら、2号は北海道で割とよく無くなるけど、本州では1号のほうが人気、みたいな傾向もあるなと。

―  おもしろい!実はここ天神山アートスタジオは公共施設で、お散歩されている方が施設にふらっと入ってくるような場所でもあって。お散歩の人は年齢層も広いからご高齢の方がよく来るのもあって、きっと年齢の若い人より(ご高齢の方が)木彫熊が身近に、家にあるようなイメージだし、しかも北海道のことを書かれているとなると2号が手に取りやすかったのかなぁと。

是恒:そうなのかもしれませんね!その後3号はちょっと紙を大きくして、二人で書き始めたんですね。

―  これは実際に資料にあたったのか、地元の人にお話を聞いたのか。

是恒:(葛巻町に)木彫熊を彫っていた人がいたっていう情報は増子博子さんが最初郷土についての本でみつけて、その後聞き込みをして、この上高山兼太郎さんっていう方の家族に行きあたって。その家族だったり葛巻町内の人たちから聞き込みをして探っているところですね。っていうのも、文献としてはほぼ何も残っていないんですよね。
あと、こういう活動をするようになって、例えば北海道の八雲町の木彫り熊資料館だったり北海道大学の学生で木彫熊を研究している人がこの間訪ねてきてくれたんですけど。なんか、あまり北海道全体での木彫熊の研究ってまだまだ進んでいないらしくて。あと木彫熊の研究をされている山里稔さんとか。本で調べられてることってすごく限られているんですね。だから聞き込みだったり、お土産屋さんとか昔からある問屋さんにずっと尋ね歩いて調べているところですね。

―  北海道各地まで行かないとなかなか情報がないですね。

是恒:そうですね。本当に残っている情報が乏しくて、30~40年前のことなんだけど、例えば葛巻町から北海道へ売っていたって言われるんだけど、岩手の人からすると北海道って言っても実際に行き来しているような視点では、”北海道って言われても広すぎてどこだろう?”っていう思いがあって。だって面積でいうと東北6県分くらいたぶんありますよね。だから東北6県の中でも岩手県の葛巻町っていうエリアから北海道って言われて、”じゃあどこからあたっていけばいいのかな?”っていうこともあったんですね。

―  流通経路なんかも調べようがないですね。

是恒:実は葛巻町からは、旧三石町(現新ひだか町)エリアに集団で移住した人たちがいるらしくて、近年までもう廃校になった三石小学校と葛巻の学校で交流もあったらしくて。なので新ひだかの博物館の学芸員さんにも聞いてみたりとか。あとは葛巻から北海道に行く経路は青森県の八戸まででて苫小牧行きのフェリーに乗るっていうのが一番行きやすいルートでもあったから、苫小牧でもいろいろ聞いてみたり。あとはいろんな問屋さんお土産屋さんに聞き込みをしたり、っていう当てもない感じなんですけど、調べているところですね。

―  3号にも書いてあったんですけど、実際に上高山さんの彫ったものに出会うのが難しいっていう。見分けられないとか。サインが書いてあるわけでもなく。

是恒:ないんですよ。でもこの活動を始めてから葛巻町内と岩手県内で上高山さんの作である木彫熊が30体近く見つかったんですよ。見比べていくと、だんだん特徴は見えてきたんで。

―  (3号の中でも上高山さんの木彫熊の特徴が)ピックアップされていますね。

是恒:うん、だからもしどこかで見たらわかるかもしれない!

―  それこそ、個人のご自宅に渡っている可能性も高いから。じゃあ、『木彫熊通信』を読んで特長にあてはまって”もしや?”と思った方は是恒さんにご連絡を!

是恒:是非!あとは、もう北海道に無いかもしれないですよね。お土産品だったから、誰かに買われて行ってどこかほかの土地に行っているかもしれない。

―  それは追跡するのは大変だけれどすごくロマンがありますね。

是恒:そうですね!

(天神山でのある日の一コマ。是恒さんが集めた素材を天日干ししている様子です。)

 

「生活の一部にリサーチもあって創作もあるなと思っていて」

―  ちなみにアーティスト・イン・レジデンスで活動されることも多いかと思いますが…

是恒:あ!私初めてです!

―  そうだったんですか!ごめんなさい!ではアーティスト・イン・レジデンスについてどうお考えでしょうか。
そう、実は2年前2018年度にレジデンスについての勉強会(続けるための記録について_AIR勉強会)に是恒さんがご参加いただいていた印象が残っています。そんなところで(今回の滞在に)繋がったのかなと思いますが。

是恒:そうですね。これまでは割とフルタイムで働いていた立場だったんで、あまりレジデンスに参加できなかったんですよね。1か月とか急に休みが取れないような働き方をしていたんで。今回は予定していた活動が延期になって割と今後のスケジュールも不確定な要素が多いので、思い切って”レジデンスしよう!”というふうに決めて。やっぱり集中して制作に取り組める環境があるのはありがたいなと思いますね。
あとは木彫熊通信だったり、私が札幌に来ているっていうことを知って北大の学生さんが訪ねてきてくれたりとか、そういう出会いがあるのも面白いなと思っていますね。

(2018年度AIR勉強会に参加された是恒さん)

是恒:2年前の勉強会でもともとアーティスト・イン・レジデンスにいつか行ってみたいなとも思っていたし、興味があって。その時に小田井さん(さっぽろ天神山アートスタジオ ディレクター)がたしかおっしゃっていたことで、”アーティスト・イン・レジデンスで決められた期間で何かしらの成果・作品を作ったり形に残そうとしがちだけど、実はそのある時期のレジデンスの体験が例えば10年後20年後にその人の作品に影響を与えることもある”っていう話をされていて。なんかそれがすごくいいなって思っていて。
確かに自分もこういうリサーチをしているけど、あまり完成イメージを持って取り組んでいくとどんどん狭い見方しか出来なくなっていくというか。本当はこういう考え方もあるっていう複雑なイメージが見えなくなっていくんで。本当に生活の一部にリサーチもあって創作もあるなと思っていて。今レジデンスの日々にも同じことを思っていて。初めて来た街という形で札幌にも出会っているし、札幌にいることで私に会いに来てくれる人もいたり。(インタビュー時は緊急事態宣言下なので)今あんまり自由に動けないんですけど、ほかの北海道内の人たちとも出会ったりいろいろ調べに行ったりできるから。まとまった期間レジデンスができることで、これまで見ていた物の見方がどんどん深まっていくというか。すごくいい体験をさせてもらっているなっていう思いがあります。

―  ありがたいです。そうやって拠点にしてもらえるのが嬉しいです。小田井さんの言っている今成果にならなくても”10年後20年後にその人の作品に影響を与えることもある”っていうのが、一番最初にお話しいただいたずっと同じ調査を緩やかにしていく是恒さんの活動とリンクしたのが幸せなことだなあと思いました。

(2021年5月20日 インタビュー)
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鯨のリサーチも木彫熊のリサーチも、またまたその後の是恒さんの活動の行き先も気になりますね。
近々の予定では来年2022年に苫小牧市美術博物館で展示をすることが決まっているそうですよ。

そして、もし鯨や木彫熊についての良い情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら是恒さんへご一報を! (深澤)

【関連Webサイト】
・是恒さくら Webサイト https://www.sakurakoretsune.com/
・『木彫熊通信』Twitter  Twitter@kiboriguma_2s
・苫小牧市美術博物館 https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/