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【アーティストの創作活動支援プログラム・風間雄飛】活動紹介③

今年2月6日、風間さんのSURI-PROの活動が公開制作という形で行われました。

本記事では、その日の制作の様子をレポートします。


これまでの経緯については、過去の記事をご参照ください。

【アーティストの創作活動支援プログラム・風間雄飛】活動紹介②

【チームビルディング】第4回チームビルディング合同会議

 

この日、風間さんは小林大賀さんとのプロジェクト最終日を迎え、桑迫さんとの制作もひとつの区切りとなる予定でした。その節目として、関係者や人材育成プログラムのメンバーに向けた全体公開の場が設けられました。午後からは天神山アートスタジオに滞在中のアーティストも見学に訪れ、制作の過程や成果を共有しながら、活発な意見交換が生まれる時間となりました。

 

 

まずは、小林さんの刷りの様子から触れていきます。

最後の版は黒。黒がのることによって、作品の世界が立ち上がります。

最後も一枚一枚、丁寧に刷っていく小林さんと、それをサポートする風間さん。

 

 

黒もただの黒インクではなく、これまで使用した赤、緑、黄色、グレーを混ぜた小林さん特製のカラー。やや鈍い黒が他の色と馴染み、強く浮き出るのではなく、最後に画面をぐっと引き締めるような落ち着いたトーンでした。

 

途中までは風間さんと小林さんの連携プレーで刷っていましたが、本物の刷り師は全ての工程を1人でやる、とのことで小林さんに1人スタイルを見せてもらう場面もありました。

片手にスポンジ、もう片方の手にローラーという二刀流です。

 

前回までは40枚刷っていた小林さんの版ですが、今回はあえて20枚まで。残りの20枚は、今後ご本人が新たな実験に挑戦するために残しているそうです。

今回見学していて印象的だったのは、刷りを重ねていくうちに版そのものが“ノリノリ”の状態になっていくこと。

10回ほど刷ったところで、風間さんも「版がノリノリですね、この状態では版を閉じたくない」と話されるほど。

最初の一枚と比べると黒の発色は明らかに強まり、版が育っていくような変化が見て取れました。刷り上がるたびに「お〜」と歓声が上がり、現場の熱量も次第に高まっていきました。

 

 

 

 

一方桑迫さんの方も、紙のカッティングを終え準備ができた様子。インクなどを準備し、刷っていきます。

桑迫さんが刷りを進めている奥では、昼過ぎに到着した天神山の滞在アーティストたちが、風間さんや小林さんと雑談を交えながら作品について話を聞いている様子も見られました。

また、制作の合間には、風間さんから小林さんへ版画作品にサインを入れる際のちょっとした豆知識の共有も。A.P.(作家保存用)、T.P.(試し刷り)、H.C.(非売品)、P.P.(刷り師保存用)といったサイン表記の違いについての説明もありました。現場ならではの実践的なやり取りが興味深い場面でした。

 

さて、そんな雑談の横、引き続き4色の版で刷っていく桑迫さん。

この日、見学に訪れていた人材育成プログラムのメンバーも、プレス機を元の位置まで回す、汚れを都度拭き取る、紙をほどよく湿らせるなど、制作の合間に生まれる細かな作業を手伝いながら現場に関わりました。

一見すると地味な工程ですが、桑迫さんから「こういうのが本当に助かるんです」と声がかかる場面もありました。和やかな空気のなかで自然と役割が生まれ、小さな作業を分担しながら制作全体を支えていく時間となっていました。

 

下の画像の、上のやや黄色みを帯びた紙の方が前回刷ったもの。下の方が今回のものです。

紙の色味の影響もあるかもしれませんが、今回の方が明るく色味がくすんでいないような印象。見学に来たメンバーもこの違いには驚き。好みも分かれている様子でした。

 

また、今回は新たな実験も試みられました。
ドローイングの版を刷っていた際、刷り上がりのインクがうっすら盛り上がって見えることに桑迫さんが気づき、すぐに風間さんへ相談。版の凹部が深く、くっきりとした溝ができているため立体的な刷り上がりになるのではないか、という仮説が立ちました。そこから「凹部と平部に別々のインクをのせれば、1度の刷りで2色が出せるのでは?」というアイデアが生まれ、即興的な検証が始まりました。

 

嬉々としてインクを乗せていく桑迫さん。深く溝のできたドローイング線の部分に最初のインクを詰めたのち、上から違う色のインクを重ねていきます。

黄色と水色の爽やかな色味で刷り上げられた作品。一度目の刷り時点でかなりきれいに刷られていて、見学者からも『きれい!』『すごい』と歓声が上がります。

 

その後、異なる版、異なる色でも試してみます。

 

それぞれ2回ずつ試し刷りを行い、桑迫さんも何やら手応えを感じている様子でした。
風間さんも「これは面白いですね」と、刷り師として仕上がりに強い関心を寄せながら結果を見守っていました。

後日、風間さんへの聞き取りを行った際には、桑迫さんについて「(風間さんが)提案したことにも自ら進んで取り組んでくださってありがたかった」と話されていました。そのおかげでさまざまな技法を試すことができ、互いに良い効果が生まれていたように感じた、とのことでした。

 

この日刷ったドローイングの版は2種、合計4枚。

よくみると絶妙に線の太さの出方が違い、作品の表情も違って見えます。インクの乗せ具合や、版の微妙な状態の違いによって雰囲気が変わる、版画の奥深さを感じました。

 

桑迫さんの作業も、この日は一旦ここで終了。風間さんと行うSURI-PROの活動も一旦ここまでだそうですが、今後も継続して作品制作を続けていく予定だそうです。

 

 

最後にはそれぞれ握手を交わし、この日の制作はひとまず終了。

刷り上がった版やインクの香りが残る工房には、完成品だけでなく、制作の試行錯誤や小さな発見が積み重なった時間の重みが漂っていました。見学者や参加者が手伝ったり間近で刷りの技術を見たりしながら自然に生まれる役割ややり取りも含め、この日の学びや気づきは、その場だけで終わらず、それぞれの今後の制作へ静かにつながっていくように思われました。

今後のSURI-PROの活動については、風間さん自身の制作が滞ってしまった面もあり、一旦間を置いてから考えたいとのことでした。ただ、今回SURI-PROでの作品制作を考えていた彫刻家の藤沢レオさんとは、藤沢さんの作品以外の依頼制作は行なったものの、自身の作品ではなかったそうで、今後SURI-PROで出来たら・・・と考えているそうです。

また、今回SURI-PROで版画作品を制作したメンバーや藤沢さんを交えて話す機会があれば、これまでの制作や経験を振り返りながら、新しいアイデアや活動の広がりにつなげられるかもしれない、といった話題も上がり、今後のSURI-PROの可能性をうっすらと感じさせる瞬間もありました。

こうした制作や対話の積み重ねは、単に作品を完成させるだけでなく、参加者や関係者それぞれの創作の幅や視野を静かに広げる場ともなっていると思います。いつかSURI-PROの参加者による展覧会や発表の機会が設けられたら、そうした営みの成果をさらに多くの人と共有できるのではないか、と個人的には感じました。