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創作活動支援人材育成プログラム「アーティストの緊張した身体をほぐす会」

先日、江別で開催された「アーティストの緊張した身体をほぐす会」に参加してきました。
この会は、大麻銀座商店街で火災被害を受けられたアーティストを何とか支援できないかと考えたメンバーの発案から、過緊張状態の身体を労わる場をつくろうという話になり、立ち上がったものです。

この火災は2026年1月7日に江別市の大麻銀座商店街振興組合において発生し、複数の店舗や拠点が甚大な被害を受けました。地域に根ざして活動してきた場所が突然失われるという出来事は、多くの関係者にとって大きな衝撃でした。

支援の方法は寄付や物資の提供などさまざまにありますが、今回の会は、心身の緊張を少しでも和らげる時間をつくることも支援のひとつではないか、という思いから企画されたものです。

なお、本火災に関する支援ファンド等の情報は、商店街振興組合の公式ホームページにて案内されています。詳細は下記をご参照ください。
https://doshinren.jp/oshirase20115/

https://npoproject.hokkaido.jp/dofund/?page_id=340

 


 

そして今回は、札幌市創造活動支援事業「吐き出し喫茶」で店員としてもお馴染みのカイロプラクター藤原英大さんを講師として迎えました。江別市近辺を主な活動拠点とし、大麻銀座商店街の方々とも親交がある藤原さんです。

吐き出し喫茶ホームページ
https://hakidashi.studio.site/

藤原整体院
https://fujiwaraseitaiin.studio.site/

藤原さんはカイロプラクターとして店舗勤務を経て独立し、現在は出張・間借り整体院をされています。「吐き出し喫茶」でもためになるストレッチ講座などを披露され、身体の仕組みをわかりやすく言葉にしてくださる藤原さん。

今回の会でも、専門的な知識をやわらかく伝えながら、参加者一人ひとりの状態に目を配る姿が印象的でした。

 

冒頭では、まずお茶をいただきつつ藤原さんのお話を軽く伺います。

「心の問題と身体の問題は繋がっている、心の問題を抱えた患者さんは100%身体にも問題がある。」という藤原さん。

ただ、「そういった心の病などを抱えている人は通っていく内に、心も治っていく。」と言います。

緊張状態や精神的に辛い状況が続くと、無意識のうちに身体はこわばり、呼吸は浅くなり、血流も滞ります。逆に、身体の状態を整えることで心の緊張もゆるんでいく。実際に、気分の落ち込みを抱えた方が通ううちに表情が明るくなっていくこともあるそうです。

問題のある部分がわかり、「それをなんとかしよう!」と思うと心もポジティブになっていくのだそう。一概にすべての患者さんがそうとは言えないでしょうが、すくなくとも藤原さんの元に来てくれた患者さんはその傾向があったそうです。

「こころも身体も、完璧な状態じゃないと、よいパフォーマンスできないですよね。」と。

お茶を飲みながらそんな話を聞いているうちに、心と身体という言葉が、どこか具体的なものとして立ち上がってくるようでした。

つづいて、いよいよ櫛引さんを被験者に整体がスタートしました。

櫛引さんは、大麻銀座商店街に仕事場を構えていたサウンド系のアーティストで、以前「おとどけアート」にも参加されていました(https://ais-p.jp/school_activity/2023nakanoshima-koheikushibiki/)。今回の件で多くの機材や資料が被害に遭われたそうですが、時間が経つにつれて気持ちは少しずつ落ち着いてこられたそうで、今回の参加も快諾してくださいました。

今回のテーマは“過緊張”でしたが、実際に身体の状態を見ていくと、主な身体の不調は緊張からよりも、日常的なPC作業中心の姿勢や生活習慣による負担が大きいのではないか、という話にもなりました。

 

とくに肩の付け根部分がひどいと言われている櫛引さん。「そこ痛いですね・・・」と言いながら施術を受けていきます。

そこで、緊張しやすい人に限らず、アーティスト全般や創作活動をしている人におすすめの運動についても、ざっくりと聞いてみました。

「運動をした方がいい」とはよく言われますが、実際に何をすればよいのか。普段パソコン作業や絵画制作など、腕や上半身に偏った作業をしている人には、どんなスポーツが向いているのか——そんな素朴な疑問です。

答えはシンプルで、「歩く!」とのこと。

最低でも20分ほど、歩いて帰るくらいの運動ができない人は、身体的にかなりつらい状態になっていることが多いそうです。上半身に偏った作業では血流が滞りやすく、筋肉も固まりやすいため、下半身をしっかり動かすことがとても大切だといいます。

特別なトレーニングや激しい運動ではなく、まずは歩くこと。
あたりまえのようでいて、案外できていないことなのかもしれません。

 

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施術中には、こんな豆知識も教えてもらいました。

いわゆる「コリ」とは、疲労物質(乳酸など)がたまったり、使わなさすぎて筋肉が固まってしまった状態のこと。血流が悪いと、それらが流れにくくなり、滞ってしまうのだそうです。

また、首に痛みが出ていても、必ずしも首そのものが原因とは限らないとのこと。どこか別の部位が引っ張っていて、その結果として痛みが出ている場合もあるため、「痛い場所」だけでなく、まわりを探っていくことが大切なのだそうです。

さらに、日本人男性に多いといわれる「靭帯骨化症」という症状の話も出ました。骨と骨をつなぐ靭帯が骨のように硬くなってしまい、可動域が狭くなったり、神経に触れて痛みが出たりすることがあるそうです。体質や遺伝的な要因も関係するのだとか。骨の変形症についても触れていて、これは骨の一部が増えるような状態。身体が痛みを補おうとしてカルシウムを出し、それが付着してトゲのようになることがある、と説明してくれました。

一概にコリや、神経の痛みといっても、このような症状が隠れている危険性もあるため、安易に痛みをほぐすのではなく、しっかりと探っていくのが大事ということでした。

 

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藤原さんは、整体や身体のケアは特定の立場に限らず、多くの人に開かれている営みだと話していました。「アーティストに特化する」という考え方自体に疑問を持っているとのことです。

また、アーティストに限らず、多くの人はPC作業中心の生活を送っており、同じような動きを繰り返す以上、どうしても身体に不調が出てきます。現代社会においてPC作業は不可欠ですが、それは必ずしも人間の身体に沿ったものではありません。仕事を続けるのであれば、定期的なメンテナンスの必要性を認識することが大切だと話されていました。

藤原さん曰く、「アーティストをやめるか、定期的に身体のケアをするか」の二択になってくるだろう、とのことです。

しかし同時に、制作や生活を優先せざるを得ないアーティストにとって、定期的なメンテナンスは理想であっても現実には後回しになりがちです。金銭的な事情も含め、ケアへのアクセスには少なからず差が生まれてしまう。その間口をどのように広げていけるのかという問いは、簡単には答えの出ない問題として残ります。

そうした話の流れの中で印象的だったのが、「自分でほぐす」のと「ほぐされる」のはまったく違う、という点でした。

自分でやる場合はどうしても身体が勝手に緊張していたり、動かせる範囲も限られてしまうため、実は案外うまくほぐせていないのだそう。他者の手が入ることで、はじめて緩む部分もあるのだそうです。

藤原さんは、実際に櫛引さんの身体をほぐして見せながら、「こういう動きとか〜〜」などと説明してくれます。

「じゃあ藤原さんはどうされているんですか?」という率直な質問に対しては、「前の同僚や、最近は奥さんにやり方を教えてやってもらってます」と話されていました。
自身の身体の傾向を理解し、それを具体的に共有することで、専門資格がなくてもできる範囲でのケアは可能なのだそうです。整体師にやり方を教わり、できる範囲でご家族などとお互いにケアし合うのも、ひとつの現実的な方法なのかもしれません。頻繁に通うことが難しいアーティストや忙しい人にとっても、身近な人とケアを共有することは、現実的で続けやすい選択肢のように感じられました。

施術を受けながら、「アーティストと身体のケア」という具体的なテーマに派生していき、体験して考える時間でもありました。言葉だけでなく、実感をともなって身体と向き合うことで、新しい視点や気づきが自然に生まれてきたように思います。

(くすぐったがりだという櫛引さん、笑いがこぼれつつ施術を受けられていました)

 

その後は、ほかの参加者も順に施術を受けていきました。

天神山アートスタジオに滞在中の韓国のアーティスト、キム・ソヨンさんも参加。普段から長時間絵を描いている彼女は、やはり上半身、とくに肩から背中にかけてのこりを指摘されていました。制作という行為が、知らず知らずのうちに身体に刻まれているのだと感じます。

筆者もありがたいことに施術を受けさせていただきました。普段からパソコン作業、重いパソコンを持って移動したり、首からカメラを下げていたり・・・思い当たる節がありすぎるほどに身体を痛めつけています。が、数日前に転倒した箇所があり、その部分について伝えると、「炎症している可能性があるところは避けます」とのこと。痛みがある場所をむやみに触るのではなく、状態を見極めることが大切なのだそうです。良かれと思って強く押したりすれば、かえって悪化することもある——身体は繊細で、慎重さを要するものだとあらためて思いました。

 


それぞれが自分の身体と向き合う時間を過ごしたあと、櫛引さんの案内で、火災のあったエリアを見させていただきました。焼け跡の残る風景に、胸が痛みます。まちもまた、傷を負うのだと実感しました。

その足で、商店街の一角にあるギャラリー「PORT OF ARTIST(ポート・オブ・アーティスト/POA)」へ。ここは、概ね30歳以下の若手作家の創作活動をサポートするプロジェクトです。作品を多くの人に観てもらう機会を広げたり、仕事の依頼をつないだり、気軽に相談できる場をひらいたり——若手が自分なりの創作スタイルを見つけるまでを支える取り組みです。

ホームページ https://port-of-artist.com/

インスタグラム https://www.instagram.com/port.of.artist/

ちょうど在廊していた若手作家さんたちとキムさんは、制作について話し込んでいました。共通するテーマや制作方法について、具体的なやりとりが続きます。

ギャラリーの方とコーディネーターも、何やら楽しそうに話していて、空間のあちこちで会話が生まれていました。

 


 

 

今回の会は少人数での開催だったこともあり、参加者それぞれの身体の不調と向き合えた点が良かった、という声も聞かれました。たしかに、緊張しやすい人にとって大人数はかえって緊張を強めてしまうこともあります。
一方で、より多様なアーティストや新しい参加者とも接点を持てる場になれば、さらに広がりのある議論が生まれたのではないか、とも個人的には感じました。アクセスのしやすさが整えば、より多くの人が参加でき、議論の幅も広がる可能性もありそうです。

アーティストと身体の問題は、創作活動や日常生活と切り離せないものだからこそ、改めて見つめ直していく必要があると感じました。

なお、藤原さんも参加される「吐き出し喫茶」は次回2月21日苗穂基地にて。関心のある方は、ぜひ訪れてみてください!