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【アーティストの創作活動支援プログラム・風間雄飛】活動紹介②

 

昨年12月から今年1月にかけて、芸術の森・版画工房で行われている風間雄飛さんの活動「SURI-PRO」を見学する機会がありました。さらに1月22日には、風間さんがゲストとして参加されたトークイベント「本気で文化を楽しむ人の夜会」にも足を運びました。制作の現場とトークイベントという異なる場から、その活動に触れることができました。

版画工房という場所が、単なる制作スペースにとどまらず、人や技術、文化の視点が行き交う場として立ち上がっていく様子を実際に目の当たりにし、とても刺激的な時間でした。この記事では、それぞれの日の見学・参加を通して印象に残ったことや、現場の空気感を記録としてまとめていきます。

 

 

1.SURI-PRO

SURI-PRO(スリプロ)は、今回のアーティスト創作活動支援プログラムの一環として実施された企画で、支援アーティストである風間さんが立ち上げたプロジェクトです。

活動内容の経緯などはこちらを参照ください。

【審査結果のお知らせ】アーティストの創作活動支援プログラム

【アーティストの創作活動支援プログラム・風間雄飛】活動紹介①

12月に見学した際には、小林大賀さんとの作品制作だけでなく、同じく創作活動支援プログラムの支援アーティストである桑迫さんとのプロジェクトも、すでに進行している段階でした。

活動や報告会を重ねる中でお二人の話が意気投合し、桑迫さんとの新たなプロジェクトが自然発生的に立ち上がっていったのだそうです。SURI-PROについて伺う中で、風間さんは期間中に2〜3名のアーティストとプロジェクトを行いたいと話されており、実際に現場の対話から新しい動きが生まれていく様子が印象的でした。

まずは、小林大賀さんとの活動について。

12月の見学時には3色目の「緑」、そして1月には4色目の「黄色」を刷っている段階でした。版を重ねるごとに画面の印象が変わり、少しずつ完成図が立ち上がってくる過程を間近で見ることができました。版を重ねるたびに、ぼんやりしていた全体像が少しずつ輪郭を持ちはじめます。「完成」に向かっているはずなのに、毎回まったく違う表情が現れるのも多色刷りで行う版画の面白さだなあと感じました。

今回、小林さんは自分で刷りまで行うスタイル。

刷りに使うインクも自分で調合し、絶妙な色合いを作っていっています。

中でもこちらの緑はグラデーションにも挑戦。濃い〜淡い緑のインクを置いた台にローラーを転がし、きれいなグラデーションを作っていきます。

 

この絶妙な色味。小林さんの絵の世界観に合っていて滋味深いですね。

 

 

そして1月には・・・

 

こちらの黄色も、絶妙な配分によって生み出されたものです。
しかしこの日の調合にはまだ納得していない様子の小林さん。「もう一度作り直したいな」と語り、すでに重ねられた色とこれから加わる色の関係を見据えながら、細やかな調整を重ねていました。

 

とはいえ画面自体は黄色が載り、ぐっと締まった印象でした。

 

 

ちなみに今回小林さんは合計で40枚強の刷りを行っており、なかなかの重労働です。

使用しているプレス機は、手動で回していくタイプ。一枚一枚、小林さんがハンドルを回していきます。

地道な作業ではありますが、一つひとつ目に見えて作品が刷り上がっていく様子に達成感があります。

並んだ様子。

黄色の次はいよいよ最終層となる黒を重ねる予定とのこと。そのタイミングでは見学会も広く開けたら、という話も出ており、「版画をもっと多くの人へ」という風間さんのスタンスが自然と伝わってきました。

 

 

一方、桑迫さんとの活動について。

小林さんの行っているリトグラフとは異なり、桑迫さんはフォトポリマーという技法を用いた銅版画の制作に取り組まれていました。光で硬化する感光性樹脂を貼った版に、フィルムを通して紫外線を当てることで、写真や手描きのイメージをそのまま版として定着させることができる技法です。風間さんが山形の美術大学で講師として指導する中であらためて学び直した技法でもあり、現場での実践として展開されていました。

従来の腐食液を多用する銅版画とは異なり、比較的安全な薬剤や水で現像できる点も特徴で、写真的な細やかな描写と版画ならではの質感が共存する表現が印象的でした。工程を見ていると、アナログ写真の暗室作業やサイアノタイプ、感光乳剤の制作に近い感覚もあり、個人的にもとても興味深いプロセスでした。

 

今回かなり印象的だったのが、風間さんの提案で、できるだけ安全で身近な素材を使った制作が行われていたこと。醤油やお酢など、「え、これで版画やるの?」と思うようなものも登場したり。これまで有機溶剤を使うことが多かった版画技法とはまた違ったアプローチが試みられていました。

 

 

 

「人にも環境にもやさしい制作環境」に、桑迫さんも「いいですよね、(この方法を)風間さんに提案していただいて凄くありがたい」と嬉しそうに話されているのが印象的でした。

こうして、まだ認知度が高いとはいえない版画技法を実際に試せるのも「SURI-PRO」ならではの魅力ではないでしょうか。共に活動する作家に合わせて技法を柔軟に変え、現場で試行錯誤を重ねていく。その過程の中で、「ああしてみよう」「もう少しこうしたら?」といった対話が自然と生まれ、風間さんの経験と桑迫さんのセンスが重なり合いながら、作品が少しずつかたちになっていく様子が印象的でした。

 

こちらは桑迫さんのドローイングを版画化したもの。繊細な線の重なりと、インクの滲みがきれい。

 

そして桑迫さんは、ドローイング作品だけでなく、写真作品の版画化にも同時に取り組まれていました。

元の写真をCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・黒)の4色に分解し、それぞれのレイヤーをOHPフィルムに出力してそこから版を制作。4版を重ねて刷ることで、写真の階調や色彩を版画として再構成していく試みです。

12月中に版を制作し、1月には実際に色を重ねる工程へと進んでいました。

別スペースで作業している小林さんも興味津々で桑迫さんの活動の様子を見にきたり。

 

刷り重ねていくごとに像が少しずつ変化し、最終的にはもとの写真とはかなり異なる表情に。写真のコピーではなく、版画として再解釈された像が立ち上がってくる瞬間がとても印象的でした。

 

 

見学会の日に桑迫さんも参加する予定とのこと。そこでは桑迫さん自身の言葉で制作の背景を聞ける機会にもなりそうです。

そしてこのプロジェクトも、どうやら今回限りでは終わらない様子。ひとまず2月末で今回の支援は一区切りを迎える予定ですが、その後も継続して制作が展開されていきそうで、今後の動きにも期待が高まります。

 

2.夜会について

さて夜会は、札幌市内のゲストハウス「サッポロッジ」にて定期的に開催されている会です。毎回、さまざまな分野で活動する人をゲストとして招き、参加者がその話を聞く形式で進行します。

以前、おなじく支援アーティストの川崎さんもゲストとして参加され、グッと作家性などに迫る興味深いお話が伺えました。

風間さんがゲストとして参加した回では、これまでの制作活動や、版画との出会い、現在取り組んでいる制作についての話がありました。形式的な講演ではなく、聞き手との距離が近い場で、これまでの経験や制作の経緯について語られていました。

 


風間さんは上川郡東川町の生まれ。東川町は水道水に地下水を利用しているとして有名な町です。

風間さんの作品では「うつろう記憶」をテーマに据え、主にシルクスクリーンを用いた版画表現に取り組んでいると言います。

版画の種類とシルクスクリーンについて

まずトークの序盤では、版画技法の基礎的な説明も行われました。版画には主に、凸版(木版画など)、凹版(銅版画など)、平版(リトグラフなど)、孔版(シルクスクリーンなど)の四種類があることから、具体的な技法の話など。

風間さんが主に用いるシルクスクリーンは孔版に分類される技法です。メッシュ状の版を用い、感光乳剤で像を定着させた部分以外にインクを通すことで刷り上げていきます。刷りの工程ではスキージを使い、インクを押し出して紙や布などに転写します。

こちらは、娘さんへのクリスマスプレゼントとして制作されたという、某ヒーロー作品の「緑のおじさん」をモチーフにしたシルクスクリーン作品。
もともと別の服に描かれていたこのキャラクターを娘さんが気に入っていたことから、自作することにしたそうです。

完成後、当初はなかなか着てくれなかったものの、最終的にはちゃんと袖を通してくれたのだとか。制作の裏側が垣間見える、なんとも微笑ましいエピソードでした。

 

版画制作を始めた経緯

もともと絵を描くこと自体は好きだったものの、「思い通りに描けてしまう」ことに違和感を覚えるようになったといいます。直接的な表現は楽しい反面、納得感を得られないことが多かったそうです。彫刻学科に進学した後も、その具体性に対する迷いは続きました。

大学卒業前、友人の紹介をきっかけに版画制作を始めたことで、版を介した表現へと移行します。版画では一度イメージを分解し、再構成する工程が必要です。特にシルクスクリーンではハーフトーンの再現が難しく、描いたものをそのまま再現することはできません。そうした制約や、版を作ってからの自由度、実験的な作業が出来るのが魅力で版画の世界にはまっていったそうです。

そして院は版画科へ進学し、より版画について深く学ぶ機会を得ることができたそうです。

身体や制作環境にまつわる小話

技法と身体の関係についての話題も挙がりました。たとえば銅版画では、以前は腐食の工程で硝酸を使用する方法が主流であり、制作環境や作家の身体への影響について語られることもありました。揮発性のある有機溶剤を扱うことから、作家の身体的変化が話題にのぼることもあるなど、制作環境の歴史的側面についての雑談も交わされました。

制作内容と素材について

制作背景として、風間さんは大学院時代にムンクの版画作品から影響を受けたことを語っていました。後にムンクの出身地であるノルウェーでレジデンス制作を行った経験もあり、ご夫婦で滞在した現地では、限られた期間の中で主にドローイング作品の制作に取り組んでいたそうです。

代表的な「やまやま」シリーズについては、当初から明確なコンセプトを設けていたわけではなく、制作を続ける中で次第に自身にとって思い入れのある山をモチーフとして刷るようになったとのこと。また、裏刷りの手法も、最初は意図せず濃く刷れてしまった経験がきっかけとなり、そこから表現の一つとして取り入れていくようになったそうです。

素材や仕上げの面では、キラキラした画材は表面から施す必要があるため、結果的に両面刷りの作品になっているという話も印象的でした。制作の過程で生まれた偶然や制約が、そのまま表現へとつながっている様子がうかがえました。

今後の取り組みについて

風間さんは、版画工房の設立についての構想にも触れていました。一方で、SURI-PROを今後事業として展開していくことについては、現時点では難しさもあると話していました。



今回の見学や夜会を通して印象的だったのは、技法そのものだけでなく、作家ごとに寄り添いながら表現の方法を探っていく風間さんの姿勢でした。版画というと専門的で敷居が高いイメージもありますが、実験や対話を重ねながら少しずつ形になっていく現場には、開かれたものづくりの空気が流れていました。

なお、その後に開催された見学会では、制作のさらなる進展も見られました。こちらの様子については、改めて別記事で紹介できればと思います。

 

本記事は、アーティストの創作活動を支援するチームビルディング事業に参加している舟迫がお届けしました。