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令和7年度札幌市文化芸術創造活動支援事業~合同報告会~レポート

2026/03/09

合同報告会の第二部では令和7年度に札幌市文化芸術創造活動支援事業の採択団体による報告が行われました。中間支援的な立場から活動する各団体が、それぞれの実践と活動を通して見えた課題などを共有しました。なお、予定していたAISプランニングからの活動報告は、第一部ですでに具体的な報告があったことから、午後に代表側からまとめて報告する予定であったものの、今回は割愛されました。

本記事では、各4団体の取り組みの報告と議論、その後におこなわれたクロストークの要点をまとめます。

 

 

一般社団法人PROJECTA/Sapporo Art Index 2025「社会連携事業」

https://www.sapporoartindex.com/

 一般社団法人PROJECTAの田口虹太さんより、アートワーカー支援の取り組みと公共空間での実践について報告がありました。PROJECTAは普段、札幌を中心にスクール事業や公共空間での展覧会事業を札幌駅前通まちづくり株式会社と共同で進めています。初年度の支援事業にも参加し、アーティストへの金銭的支援やステートメント講座などを実施しました。初年度の経験を振り返り、助成金に頼らず持続的に支援を行えるよう民間と連携して自立的なプログラムを行うことを目指し、今回のプログラムを立ち上げました。

 

 

 

事業の概要と活動内容

主なプログラムとして2つ、アーティストやアートワーカー向けのスクール「インディペンドのスクール」とその成果展「Art in Public」と行い、学びと実践が一貫となった形を掲げました。

 「インディペンドのスクール」では38名の応募から審査を行った上で、20名の参加者をアートワーカーを中心に採択。アートマネジメント講座や自立支援プログラムを実施し、講座やディスカッションを重ねました。

 講座内では、「都市とアート」や「過疎地の実践」などテーマに、アーティストが実際に自分で企画を立案し行っていくことや、札幌を拠点にしつつ東京など活動の幅を広げてやっていくにはといった内容の話に触れて講座を開いていきました。また、講座のほかに展覧会に向けてのディスカッションなども行っていきました。その中で、企画チームが立ち上がり、公共空間を多面的に捉え進行できたことも成果の一つでした。予算を全体共有し、展覧会における壁面の出力費や、地下歩行空間とどのようにフラットな関係にやっていけるかについても話していきました。

 「Art in Public」は、スクール生の中から作品プランを募集。メンターとして、佐野由美子さん(CAI03 ディレクター)、鈴木涼子さん(美術家)、高橋喜代史さん(美術家/一般社団法人PROJECTA)らに入ってもらい、成果発表者として募集プランの中から2名のアーティスト(山口哲志さん、仲村うてなさん)を選出しました。札幌駅前通に面した(仮称)北海道ビルヂング建替計画仮壁とチ・カ・ホ(札幌駅前通地下歩行空間)で、それぞれ1名のアーティストによる作品を展示が行われました。

山口哲志さんによる「チ・カ・ホ」での展示は、実際に地下歩行空間に立ち飲み屋を模したアート空間を出現させ、公共空間におけるアートの在り方を実践的に検証しました。会期中は作家が現場に立ち、来場者と対話を重ねる形式をとりました。飲食提供はないものの、その場に生まれる偶発的な会話や出会いが印象的だったそうです。

展覧会にあわせ企画チームが発案したイベントも実施。高齢者体験デバイスを使ったリサーチ・ツアー「『うらしま太郎』の旅 in 冬の札幌」や、トークイベント、パフォーマンスとその記録映像の上映なども実施されました。

仲村うてなさんの作品展示は、「穴場」仮囲いへの諸々の申請が遅れたため(報告会当時)今後の展示となったそうですが、こちらも実施予定とのことです。(※現在開催中、会期終了日未定)

 

 

活動を振り返って

講座の中では、外部講師との懇親会や、参加アーティストが講師へポートフォリオの共有、東京を拠点に活動する講師との連絡先交換なども行われ、東京やアーティストの今後へのつながりを実感できる有意義な時間となりました。

 「Art in Public」では予想外の企画チームが生まれ進められたことが成果であり、予算面でも出力費を抑えアーティスト支援金を回すなど、PROJECTAとして学びを得ました。

 

今後は

 PROJECTAとして札幌文化芸術の持続的な基盤を作ることも行いつつ、今回のプログラムを通じて、アーティスト同士の横のつながりが広がり、PROJECTAとは直接関係のないプロジェクトが進んでいくことも期待されています。

 

質疑応答

運営やメンターの関わり方、公共空間での実践のあり方について、多くの議論が交わされました。内容が多岐にわたるため、ここでは要点のみ簡略的にまとめさせていただきます。

主なテーマは以下の通りです。

 ステートメントとメンター・運営の関わりはどうだったか

・メンターは、過激な実践や巻き込みのリスクを調整し、企画チームと話し合い展覧会の本来の姿を保つ役割を果たした。例として、アーティストが個人的な思いを強く持ったステートメントを公共空間で表現したいと言った際に、どう取り扱うべきかメンターが状況を整理し議論された。

・個人的な表現と公共性のバランスを、運営・メンター・受講生全員を含めた話し合いで判断。

 公共性と個人の表現について

・個人の表現の「正しさ」や重要性はグラデーションがあり、公共の場での発表を行う上で難しさがあるため、運営・メンター・受講生全員で共有された合意のもと、発信が行われた。

 公的資金からの自立について

・公的資金だけに頼らず、民間企業の協力や資金を活用することで、持続的に今回のようなプロジェクト運営が可能になるのではないかという考えが示された。

 作品に対する市民の反応

・山口哲志さんの立ち飲み屋作品では、素通りされることもあり難しさを感じた。また、立ち飲み屋を模しているが飲食物ではなく、コミュニケーションを提供する作品であったため、期待して入った来場者が残念だったという話もあった。

・立ち飲み屋の閉鎖的空間を公共空間に持ち込むことで、市民との偶発的な会話や新たなつながりが生まれる様子があった。

・アニメーション制作を学んでいる学生が来場し、山口さんの知り合いの千歳在住アニメディレクターとのつながりが生まれ、ネットワークが強化された事例が印象的だった。

・一人の来場者がきっかけで他の来場者も入るなど、公共空間での作品体験の影響や反応についての具体例も共有された。

 

 

 

Sapporo Culture Knot Week実行委員会/Sapporo Culture Knot Week:アーティスト・文化拠点を結ぶ分野横断型連携支援事業 (仮)

https://www.instagram.com/sckw_2025/

株式会社あやめ文化技術研究所・代表の山田大揮さんより、分野横断型の連携支援事業「Sapporo Culture Knot Week」について報告がありました。

山田さんは普段、展覧会や舞台公演などのテクニカル業務を請け負っており、技術相談を通じて多くのアーティストや団体と関わっています。その中で、技術面にとどまらず、広報面やネットワーク形成に関する相談が多いことに気づいたといいます。 共通の悩みや課題を持つ人々が、分野を越えてコミュニケーションを取ることで解決を目指せるのではと思い、本事業を立ち上げました。

 

事業の概要

事業内容としては、アーティストだけでなく文化拠点として会場、アートセンター、ギャラリー、展示スペース、ライブハウス、小劇場などの多様なジャンルを繋いだ上で、ネットワーキング、活動費助成、広報、技術サポートを提供するプロジェクトを行ってきました。

 昨年7月に公募を行い、採択された10企画のイベント・展覧会などは11月末から12月の約10日間の実施期間で集中的に開催されました。それに向け、事務局イベントとして11月末前に、ハラスメント・ギャラリーストーカー対策に関するトークイベントを実施し、採択者と会場担当者をZOOMで繋ぎました。

 広報としてはパンフレットを作成し、公共施設に配布して10企画を掲載しました。これには採択企画以外の企画も募集・掲載しており、落選者や未応募者の掲載希望も含まれます。掲載数は限られましたが、多様なジャンルの同時開催イベントを紹介しました。

 

採択事業の内容

 

 採択された企画は以下の通りです。

  • モユクサッポロにて、ジェラート屋さんで展示とコラボしたフレーバーを作成したアーティストの企画「A Spicy Dream of Tanuki スパイスタヌキ、夢を見る。 」

  • 音楽と演劇のパフォーマンス「ジャックと豆の木」

  • 空間というオルタナティブスペースによる、10人以上のアーティストによる展示販売「Ku-kan ARTIST’S FES」

  • それぞれの問いを持ち寄り、集まった言葉から始まる哲学対話イベント「蔵の開放日 #2」

  • 先住民族アイヌとマジョリティーの関係性を考える「マジョリティ会議」

  • 苗穂基地を使用し、火の世話をしながら24時間にわたる多様なイベント

  • 演劇ユニットPANCETTAによる公演「PANCETTA Special Performance “Gouche”」

  • 前田明日美さんの展覧会「ほどけたコーラス - chorus set free」と関連企画

  • 3名の大学生アーティストによるグループ展「まもかまぶる展」

  • 宮崎竜成さんとShukatsuプロジェクトによる取り組みと個展 「ありあまる富」

 それぞれが独自のテーマを持ちながらも、期間中にゆるやかに接続していきました。
 なかでも印象的だったのは、別の採択企画者同士でのコラボレーションが行われたり、展示会場のコミュニティスペースで交流する空間が生まれたことです。企画同士が直接結びつけられたわけではなくとも、同時期に開催されていたことで自然な交差が起きた事例として共有されました。

活動を振り返って

 運営費、広報費、イベント予算の配分が十分でなかった点は反省点として挙げられました。運営が大変だったため、来年度以降のプロジェクトで参考になると考えられます。

 当初はネットワークと広報を重視していましたが、企画者とのコミュニケーションを通して、クリエイションへの具体的なサポートが重要であることに変化しました。必要に迫られて対応するアプローチが意味があると感じられました。その中で、参加団体同士の顔合わせやオンライン上の交流の場を設け、ゆるやかなネットワークづくりを行いました。その結果、「場を整えることで、つながりは自然に生まれる」という手応えがあったといいます。

 またそのほか課題として、プロジェクト外の業務や予算・体制の不足による広報面での支援体が不十分であったこと、当初の課題として「みんな同じ悩みを抱えている」状況に自身も陥っていたこと、公共的な立場で助成を行うことによって生まれる影響力や権威性についても言及がありました。「公共性を重視する」と掲げることが、企画の方向性にどのような影響を与えているのか、中間支援のあり方そのものを問い直す報告となりました。

対症療法的な広報・資金サポートは重要だが、根本的なクリティカルアプローチを探求しないと状況はなかなか変わらず、道のりが遠いという気になったとも話されていました。

 

質疑応答

質疑では、まずイベント日程が集中していたことについて指摘がありました。参加団体同士が互いの企画に足を運びにくい状況があったのではないかという意見です。横のつながりを目指す事業であるからこそ、スケジュール設計の重要性も共有されました。

また、報告内で触れられていた「根本的には状況は変わらないのではないか」という問いに対し、具体的な改善策について質問がありました。これに対しては、支援を分散させるのではなく、一点に集中して取り組む必要があるのではないかという考えが示されました。個人では到達できない領域まで踏み込むことができてこそ、中間支援の意義があるのではないか、という応答がありました。

公共性の捉え方についても意見が交わされました。発表者からは、「自分がまだ認識できていない人の分まで責任を持つこと、意識を持つこと」が公共である、という考えが示されました。

採択の透明性については、審査員を全員外部とし、事務局は審査に関与しない体制を取ったことが説明されました。一方で、公募情報の発信については、事務局のリーチが知り合いに偏りやすいという課題も共有されました。今年度は応募者が結果として知り合い中心となってしまい、その状況を覆すことができなかった点が今後の課題として挙げられました。

さらに、SNSでの情報発信においては、公共性を意識し、多様な来場者に不快感を与えないよう配慮しながら内容を伝えようとする姿勢が印象的であったという意見もありました。具体的なターゲットとしては、文化芸術に関心はあるものの、これまで他ジャンルの場には足を運べていなかった層を想定していたことが説明されました。

 

 

 

Projects HAKI-DASHI 運営委員会/吐き出し喫茶:ケアとアートが交わる新たな公共空間を探る、実践的取組

https://hakidashi.studio.site/

 

 

Projects HAKI-DASHI運営委員会による「吐き出し喫茶」について、戸島由浦さんと櫻井幸絵さんより報告がありました。本活動は、ケアとアートが交わる新たな公共空間を探る実践的な取り組みです。福祉や医療だけではカバーしきれない社会的・精神的課題に対して、芸術がどのように関われるのかを模索しています。

また近年は、「私たち自身ももっとご自愛したほうがよいのではないか」という視点も活動の中で語られるようになってきました。他団体が掲げるようなアーティスト支援とは少し異なり、吐き出し喫茶では福祉など他業域との連携を一つのテーマとして活動が続けられています。

 

事業の概要

吐き出し喫茶としては2023年から、これまで約20回近く活動してきました。ワンデー喫茶店という形のお悩み相談であり、アートイベントです。喫茶店主をアーティストたちが担い、メニューは「吐き出し」と、「吐き出しにまつわるレクリエーションやWS」、ドリンクメニューもあります。店員や会場は回によって異なり、月一回の開催を行なってきました。

 

 

活動の背景と目的

現在、14人に1人がうつ病になる可能性があるとも言われており、精神的な悩みは社会的な課題の一つとなっています。こうした状況に対して、芸術が何をできるのかという問いを出発点に活動が続けられてきました。とりわけ、福祉や医療だけでは対処しきれない部分として、精神的なケアのあり方が挙げられます。歴史的に見ても、宗教や占い、民間療法、飲み屋、喫茶店、公民館など、多様な場所が人々の悩みを受け止める場として機能してきました。

吐き出し喫茶は、こうしたケアの歴史を現代的に更新する試みとして、ワンコイン・ワンデイ形式の喫茶店を開き、誰もが自由に思いを表現できる空間づくりを行っています。活動は、まず実践を重ねることから始まり、次に関わる人を増やしていくこと、さらに内容を福祉的な視点とも接続させていくこと、そして安定した運営体制を築くことを目標として進められています。

 

運営体制とルールづくり

 コアメンバーは4名程度で、ソーシャルワーカーやボランティアと連携しながら運営しています。

 今年度はまず、グランドルールを設けるところから始めました。ワークショップで自由に行動してよいとされることもありますが、お互いが安心してその場にいられるようにするためにはルールが必要であると考えました。なんでも「吐き出し」てよいわけではなく、より専門的な対応を要する深い悩みについては、専門のカウンセリング等の場で相談することが望ましいとし、ここでは一定の境界線を引くことで、あくまで喫茶店としての場であるという前提を共有していきました。

 

参加者は「お客」、運営は「店員」という前提や、参加者やスタッフに個性の強い人がいる可能性も事前に共有、必要に応じて話を中断できる仕組みや、相席形式への配慮、差別的表現への柔軟な対応など、安全性と自由度のバランスを重視しています。また、毎回の開催前には打ち合わせを行い、終了後には振り返りを実施しています。

 

各回の実践内容(2025年7月~2026年2月)

2025年7月は、小林大賀さん(映像・絵本作家・画家)を迎え、即興劇や人形劇を実施しました。育児や仕事の困難を人形劇に翻訳することで、参加者は自身の悩みを外から眺める体験を得ました。

8月は内田聖良さん(現代美術家)によるバーチャル供養体験でした。3Dスキャンした思い出の品とテキストを仮想空間で浄化する試みで、自分の頭の中を供養したいと机に伏して鈴を鳴らす参加者の姿もあり、身体性を伴う儀式的な体験となりました。

9月は振付家・きたまりさんの回で、整体師の店員による整体ワークショップを通じて身体感覚を整えた後、そのままダンス(?)へと展開しました。

10月は美術家で僧侶でもある風間天心さんによるミニ大仏づくりとおまじないづくりが行われました。朝起きるための儀式など身近な題材もあり、盛り上がりを見せました。

11月は小島翼斗さん(セクシャリティフリーバー「7丁目のママ」)によるメイクや歌、パーティー形式の回でした。非日常空間での自己表現が、共同体験としての解放感を生み出しました。

12月は深澤孝史さん(美術家)による回で、「信仰振興課」として「(悪)霊の戸籍登録窓口を開設」といったユーモラスな設定のもと、悩みを象徴化するワークが行われました。参加者は自分の「悪霊」をカード化し、笑いを交えながら内面を整理しました。

2026年1月は米本智昭さん(青峯山観音寺住職)。自分の気持ちを書いた紙をお焚き上げなどを実施。会場では偶然書道の展示があり、親和性のたかい空間となっていた。

2月は石岡美久さん(ファッションデザイナー)によるファッションショーが開催されました。服やメイクを通じて参加者の表情が変化したのが印象的だった回。「服は人を選ばない、人が服を選ぶ」

 

 

活動を振り返ってと、今後の展望

振り返りの中では、福祉と芸術の立場の違いについての話題も挙がりました。ソーシャルワーカーの職業倫理では、クライアントとの支援関係を守るため、他者との境界線(バウンダリー)を意識し、政治・宗教・営利活動を持ち込まないことなどが前提とされています。一方でアーティストは、既存の枠組みや価値観を問い直しながら新しい表現を生み出していく存在であり、この点に両者の大きな違いがあるといいます。

その違いがあるからこそ、福祉ではケアしきれない部分を芸術が補うことがあり、逆に芸術だけでは難しい部分を福祉が支えることもあるのではないかという意見が共有されました。対話の中では明確な正解があるわけではありませんが、「境界線の濃さ」そのものに意味があるのではないかという考えも示されました。

また、自分と他人、そして社会との関係性は生きていくうえで特に難しいテーマであり、言葉にして語ることが、それぞれの関係のあり方を考えるきっかけになるのではないかという話にも広がりました。吐き出し喫茶でも場を提供する責任については意識されており、ルールを厳しくしすぎると新しいことが生まれにくくなる一方で、一定の枠組みがあるからこそ生まれるものもあるというジレンマがあるといいます。そうした葛藤と向き合いながら現場を動かしていくこと自体が、共創のプロセスであるという考えが示されました。

また最近では、福祉領域の人々が芸術に関心を寄せるケースも増えているといいます。芸術活動に興味はあるものの、コミュニケーションの難しさなどから活動が難しい人に対し、福祉の専門職が関わる形も考えられるのではないかという声もあり、福祉と芸術のあいだをつなぐような立場が生まれる可能性も語られていました。

活動に対する参加者の反応としては、「もっと広がってほしい」「自分も関わってみたい」といった声が寄せられています。また関係者からは、吐き出し喫茶には良い意味での曖昧さや未完成さがあるのではないかという指摘もありました。

 

 

一方で、回によってはハードな「吐き出し」が起こる場合もあります。人が多く集まった際に距離感が近すぎて居づらさを感じるという意見や、「意外と話せない」という感想もありました。吐き出し喫茶という名前から、言葉によって思いを吐き出す場だと想像されがちですが、ケアのあり方は言葉だけではないのではないかという問いも運営の中で生まれてきています。

たとえば、服を着替えたりメイクをしたりすることで気持ちが大きく変わるように、人が「主役」になる体験そのものがケアとして機能する場合もあるのではないかという視点も共有されました。

吐き出し喫茶は喫茶店という形式をとっているため、自発的な参加を前提としながらも、日常の延長として文化や芸術に触れられる場所でもあります。完成された作品や舞台とは異なり、参加者とともにその場を形づくっていく余地があることも特徴です。

また、吐き出し喫茶は「公共空間」として語られることもありますが、喫茶店という形態である以上、完全に開かれた場というわけではありません。場所や参加者が変わるなかで、その場に集まった人たちのあいだにゆるやかな関係が生まれ、普段出会わない人と出会うきっかけにもなっているのではないかと振り返られていました。

 

今後については、働く人や支援者自身のケアを求める声もあり、そうした視点での取り組みも検討されています。また、活動の枠組みを共有する形での「のれん分け」や、記録・ドキュメント化を進めていくことも今後の課題として挙げられました。

 

質疑応答

質疑応答では、まず4人という少人数でどのように活動を継続してきたのかという点について質問がありました。

これに対し戸島さんは、開催前には必ず打ち合わせと振り返りの時間を設けていると説明しました。打ち合わせでは当日の目標を事前に確認し、遅れてくるメンバーの状況も見越して時間配分を調整しているといいます。また、月に1~2回は福祉やアート現場に関する勉強会を実施し、知識や視点を共有しているとのことでした。

櫻井さんからは、メンバーそれぞれが自分自身のケアを行うことが、結果的に活動全体の安定につながっていると語りました。メンタル面の支えや制作面でのサポート、身体的なケアなどが自然に役割分担として機能しており、「自分たちの状態がこれでオッケーだ」という価値観の共有、納得できる姿勢を大切にしていることが、無理のない継続を支えているとのことでした。

また、吐き出し喫茶における「公共性」ついても言及がありました。櫻井さんは、本活動は単なる個人の吐き出しの場ではなく、公共性を生み出す試みでもあると述べました。かつては行政や上位機関の方針に従うことが公共性とみなされる側面がありましたが、現在は多文化共生や想像を超えた体験を尊重する姿勢が求められています。喫茶店という形式をとることで、閉ざされた支援の場ではなく、日常の延長として人や文化に触れられる空間が生まれているといいます。

 

吐き出し喫茶参加者から、なぜ参加者が多くこの場に集まるのかという問いも投げかけられました。

まず戸島さんは、活動を継続するなかで、人・場所を介してや、新聞やチラシを通じた広がりも生まれ、さまざまな糸口から、世代や文化的背景の異なる人々が集まりやすくなっているのでは?と。一方で人が多く集まると、参加者一人ひとりへのアプローチの難しさがあるとも語られました。

櫻井さんからは、多くの人が「話したい」という欲求を抱えており、気軽に話を聞いてもらえる場を求めているのではないかと述べました。精神科やカウンセリングでは時間や費用の制約があり、1時間じっくり語ることが難しい場合もあります。その点、吐き出し喫茶は、かつて宗教や芸術文化の場が担っていた役割を現代的に引き受けている側面があるのではといいます。

演劇の終演後に観客と長時間語り合う文化の延長線上にある試みともいえ、都市部という環境も相まって、多様な人々が自然と「話せる場所」を求めて集まっているのではないかとまとめられました。

 

 

 

 

スパークプラグアライアンス/教育とアートをつなぐネットワーク事業

https://artkids-net.com/

事業の概要

スパークプラグアライアンスによる「教育とアートをつなぐネットワーク事業」について、森嶋拓さんより報告がありました。本事業は、劇場と連携しながら教育現場とアーティストを結び、子どもたちに新しい学びの機会を提供することを出発点として発展してきた取り組みです。小学校やフリースクール、オルタナティブスクールなどの教育現場と協働し、授業やワークショップを通じて実践を重ねてきました。

背景には、映画館に比べて敷居が高く感じられがちな劇場を、より開かれた場所にしていきたいという思いがあります。子どもたちが訪れやすい場として劇場を活用し、教育活動と結びつけることで新しい体験の機会をつくることを目指してきました。また、教育現場には多くの学校がある一方で、アーティストが関わる機会はまだ限られており、その間をつなぐ仕組みをつくることも大きな目的の一つとされています。

今回が2年目の活動。初年度は公募によって教育活動に関ってきたアーティストを募集し、18組の応募の中から6組を採択。さまざまなことを劇場で行いました。教育のマナーとアーティストの倫理観を擦り合わせるために講師を4名招いて勉強会も行われました。また、教育とアートについて語り合う企画「語る広場」も実施されました。学校関係者だけでなく、フリースクールや保育士、塾講師、若者支援に関わる人など多様な立場の参加者が集まり、ネットワークの広がりが生まれました。

 一面的に見れば成果もあったものの、一方で、金銭面など継続していく上での難しさや、「砂漠に水を撒くような果てしなさ」も感じられました。その経験から、継続的なネットワークをつくることの重要性が意識されるようになりました。そのため、新たに「スパークプラグアライアンス」という枠組みを立ち上げ、既に活動している人々をつなぎ直しながら、長期的に活動を支えるネットワークの構築を目指し、今回の事業を立ち上げました。

 

事業の取り組み

 今回、実験的に行ったのは、教育者とアーティストが協働して教材づくりや探究学習を行う試みです。学校現場では予算やネットワークが限られていることも多く、そうした制約の中でどのようにアート教育を実践できるかを模索する機会となりました。今回は大通高校とフリーランスの保育者の方の2組を採択しました。

 また、学校だけでなくオルタナティブスクールに関する研究や、前年度に引き続き「語る広場」も実施しました。今回はオンラインでも開催したところ、国内外から参加者が集まり、良い機会となりました。

 

活動を振り返って

 保育者もアーティストに近いところはありますが、現代アートに対する理解はそこまで深いものではないこともあります。アーティストにとっても保育者と話す機会はあまりないため、お互いのことを知ってもらう機会を作れたのは良かったです。今回は「教育者meets アーティスト」を掲げて行いましたが、今後「〇〇meets アーティスト」と派生していけば、より多くの人に社会の中でアートを理解してもらう入り口になると感じました。対談の様子はホームページ(https://artkids-net.com/category/meets/)に掲載されています。

 また、オルタナティブ教育の場で実施したサマースクールでは、子どもたちの主体性の強さが印象的でした。興味のないことにはすぐ別の行動に移る一方で、面白いと感じたことには積極的に関わる姿が見られ、子どもたちはすでに創造性や主体性を持っているという実感につながりました。大人はそれを引き出すための枠組みを整える役割なのではないかという気づきも共有されました。企画をすると「こうしてほしい」という大人のエゴも生まれますが、大人自身を変えて「アートってもっと何か?」という接点を持っていくことの大切さにも気づきました。

 さらに、企画段階にはなかった活動として、文化部認知のもと「開かれた対話の旅」を行いました。岩見沢の福祉モールへアーティストとともに赴き、リサーチや情報公開を行いました。これらの活動はSNSで広告付き発信も行い、多くの人に知ってもらう取り組みも進めました。

 浦河町へのオルタナティブスクール視察も行いました。幼稚園とフリースクールを運営しており、海外からの留学生受け入れも行っています。

 また、札幌のプレーパーク(https://www.sapporo-park.or.jp/playpark/)の現場視察も実施しました。市内には約20団体があり、多種多様な人々が集まる様子に衝撃を受けました。子どもたちは自由に遊び、老人たちは子どもたちから元気をもらう姿も見られ、学校だけが教育の場ではないことを実感しました。

 

 

今後は

現在、里親協会の方や病院の医師、安平町の教育長など、さまざまな分野の人を紹介してもらいながらネットワークを広げているとのことです。一方、活動を自走させていくことの難しさも感じており、今後のあり方を模索しているといいます。

まだ構想段階の部分もありますが、単発の事業にとどまらず、活動を継続していくためのネットワークづくりや対話の場を広げていきたいという考えが示されました。好きな人に向けて活動することも大切にしつつ、アーティストとともに社会とつながりながら、どのような形で活動を続けていけるのかを探っているところです。

 

 

質疑応答

質疑応答の中では、活動が広がっていく中で、実際の予算や企画運営といった現実的な課題とどのように向き合っているのかという質問がありました。これに対して森嶋さんは、これまで自身で事業を立ち上げることも多かったが、今後は既に活動している人や取り組みをつなげたり紹介したりする役割を意識していきたいと述べました。自身のエゴとの向き合いも含め、なるべく自分が中心となる「点」にならない形を模索しており、人が集まる場や交流の機会をつくるなどしながら、無理に予算のリスクを負わない形で活動を続ける方法も考えていきたいと語りました。

また、教育者とアーティストが出会うことで、どのような相互の学びが生まれているのか、さらに活動の中で芸術性をどのように捉えているのかという質問もありました。実践の中では、教育者の立場や経験によって関わり方にも違いが見られ、アーティスト側から提案する場面もある一方で、探究学習に取り組む教育者との協働では新たな視点が生まれることもあったといいます。例えば、防災とアートを組み合わせた取り組みでは、台風や地震といった大きな災害だけでなく、地域の日常に潜む小さな出来事を「マイクロ災害」として捉える視点が共有されるなど、教育とアートの対話から発想が広がる事例も紹介されました。

さらに、芸術性については、アートを社会に開いていく側面と、表現として深く掘り下げる側面の両方を行き来することを意識していると述べられました。活動の広がりと芸術性の高さのどちらか一方ではなく、そのバランスを保ちながら関係性を築いていくことが重要であるとの考えが示されました。

 

 

クロストーク:中間支援の役割と札幌の芸術文化の未来

 クロストークでは、札幌市の創造活動支援事業において重要な概念となる「中間支援」の役割について、各団体の実践を踏まえた意見交換が行われました。議論では、支援対象者の声や事業の成果・課題、各団体の強みを共有したうえで、今後の芸術文化のあり方について幅広い視点から議論が展開されました。

 冒頭ではまず、進行を務めるAISプランニングの漆さんから、今回の報告会の趣旨が示されました。形式的な報告会ではなく、各団体の実践や取り組みを踏まえながら、札幌の芸術文化における中間支援の意義を幅広く議論する場であることが説明されました。

支援対象者の声と事業の手応え

 トークはまず最初の投げかけとして「実際に参加した人や支援対象者はどんなことを感じ、どんな変化があったのか」という視点から考えてみるのが大事だ、という話がありました。そのうえで、各団体から順番に短い意見を共有していきました。

 スパークプラグアライアンスからは、短期的な成果として数値化できるものばかりではなく、長期的な視点で評価する必要性が指摘されました。例として、オルタナティブ・サマースクールに参加した自閉スペクトラムの子どもが、学校には通えない日もある中でプログラムには全日程参加した事例が紹介され、こうした変化こそが支援の重要な成果であるとの意見が共有されました。

 吐き出し喫茶からは、中間支援の役割を「耕すこと」と表現する意見が出ました。制度的な支援ではすくいきれない曖昧な関心や感情を受け止め、芸術への関心や新たな関係性を育てることが重要であるという意見です。参加者からは継続的な居場所を求める声も多く、一回限りの事業の枠を超えた関係性の構築が課題として挙げられました。

 

 

 PROJECTAからは、スクール事業における反省点として広報の弱さや、企画チームとのコミュニケーション不足が共有されました。一方で、参加者が自発的に企画チームを立ち上げるなど主体的な動きが生まれたことは成果として評価されました。

 Sapporo Culture Knot Week(以下、SCKW)からは、ネットワーキングや交流機会について参加者から好意的な反応が多く寄せられたことが紹介されました。特に、公募審査のフィードバックを丁寧に応募者へ返した取り組みは、不採択者からも高く評価されたということです。一方で、広報や参加者とのコミュニケーションのあり方には改善の余地があるとの認識も共有されました。

 

 

各団体が考える強み

 

 つづいて各団体の強みについても意見が交わされました。

 スパークプラグアライアンスからは、200万人都市である札幌全体へリーチしようとする姿勢を示せたことが、今後の強みにつながる可能性として挙げられました。

 吐き出し喫茶は、アート・福祉・喫茶など複数の要素が重なり合い、参加者とともに変化し続ける場所であることが特徴であると述べられました。また、参加者同士が率直に本音を語れる環境も強みとして挙げられました。

 PROJECTAは、アートスクールや公共空間での活動など、これまで積み重ねてきたノウハウを基盤に、作家のステップアップを支援する仕組みを持っている点を強みとして挙げました。

 SCKWは、分野横断的なネットワークの広さを強みとして挙げました。また、専門的な展示技術を持つメンバーの存在など、技術面での支援の可能性も指摘されました。

 

札幌の芸術文化の未来像

 

 議論の後半では、こうした活動の先にどのような未来を描くのかについて意見が交わされました。
 複数の参加者から共通して挙げられたのは、芸術分野だけに閉じない連携の必要性です。教育や福祉など他分野との接続を強めることで、芸術活動の社会的意義や持続可能性が広がるのではないかという指摘がありました。

 また、スパークプラグアライアンスからは海外の中間支援組織の例が紹介され、団体ごとに異なる特徴やカラーを持つ支援組織が複数存在することで、より多様な人々を受け止めることができるのではないかという意見も出されました。

 吐き出し喫茶からは、芸術を「生存のためのインフラ」として捉える視点が提示されました。コロナ禍を契機に、芸術が人々のケアやコミュニティ形成に果たす役割が再認識されており、壊れてしまう前に支えるセーフティネットとしての機能を強化する必要性が指摘されました。

 

 

 PROJECTAからは、活動を継続していく上で特定の助成や交付金に依存しすぎることのリスクが指摘されました。持続可能な運営のためには、資金源や支援の窓口を複数持つことが重要であり、その一つとして行政との連携も大きな役割を果たしているということです。行政と協働することで、民間だけでは届きにくい層へアプローチできる可能性があり、芸術活動を支えるインフラの形成という観点からも重要な意味を持つと述べられました。また、国際芸術祭を持つ都市として、アーティストにとって魅力的な活動拠点となる都市像を目指す必要性も示されました。

 SCKWからは、既存の助成制度との関係性や「公共」の捉え方についての問題提起がありました。公的助成は形式上は間口が広いように見える一方で、申請手続きや制度理解の面から実際にはアクセスできる人が限られる側面もあるということです。そのため、若い世代や経験の少ない表現者にも機会を開く柔軟な支援のあり方が必要であり、「間口は広く、関わりは深く」という関係性の構築が重要であると指摘されました。

 さらに、公共空間は必ずしも整然とした「クリーンな場」ではなく、さまざまな人が共存し、ときに摩擦を抱えながら成立するものであるという認識も共有されました。こうした多様性を前提とした公共性を芸術支援の中でもどのように実現していくかが今後の課題として提示されました。

 

 

 クロストークの最後には、進行の漆さんから、各団体が個別に活動するだけでなく、それぞれの強みを持ち寄りながら、より広い窓口となるような連携の可能性についても話題が及びました。コンソーシアムやコレクティブのような形で団体同士がゆるやかにつながることで、行政助成だけでなく民間資源の導入や新たな連携の機会も生まれるのではないかという意見が示されました。

 具体的な組織化については今後の議論に委ねつつも、まずは団体同士が定期的に対話できる場や連絡網をつくり、継続的に情報共有や意見交換を行っていくことの重要性が確認されました。こうした対話の積み重ねが、札幌における芸術文化支援の新たな関係性を育てていくことへの期待を感じさせる形で、クロストークは締めくくられました。

 

 

 多様な現場の声を受け止めながら、私たちは札幌の芸術文化をどのように育んでいくべきか、考えるきっかけとなる場でした。また、3月17日には札幌市が行う報告会も予定されており、さらに広く活動の成果が共有される見込みです。