天神山滞在ブログTenjin_blog

滞在者インタビュー 〜篠塚聖哉さん〜

インタビュー/撮影:s
(2015/7/11 さっぽろ天神山アートスタジオにて)

 

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-----------もともと、さっぽろ天神山アートスタジオを知ったきっかけはなんですか?

 

去年の9月に熊本で個展をやってそれからずっと色々なところを旅していました。今年の3月に北海道に初めて来て、そのときに函館と札幌の印象がとてもよくて、また来たいなと思っていたんです。

色々調べていたらこのスタジオを見つけて、すぐに申し込みをしました。

 

----------さっぽろ天神山アートスタジオを利用した感想などを教えてください。

 

生活していくためにお金のことと作品のことを両方考えていかなくちゃいけないけれど、ここでは作品のことだけを考える時間として利用できました。
滞在していた約3ヶ月間は、じっくり美術史について学んだり考えたりできたと思います。実は今まで美術史について学んだことがほとんど無くて、歴史を知らないがゆえに根拠のない不安みたいなものがあったんですけど、学んでいくうちに過去には精神性が強くて内側に向かった作品もたくさんあることを知り、その歴史のなかで自分の位置を考えられたのはよかったです。

 

----------篠塚さんは、普段どのような作品を作っているんですか?

 

2005年から平面作品を作っていますが、それまではずっと10年近くインスタレーション作品(※1)を作っていました。そのときは空間に錯覚を起こすような作品を作っていたんですが、30歳を過ぎた頃に平面作品を作りたくなって、制作し始めました。

 

----------ペインティングといっても元々は日本画を描いていたとのことですが、どうしてインスタレーションでの作品を?

 

学生時代は日本画の伝統的な絵画形態と体制に対する疑問があって窮屈だったんですが、銀座のギャラリーや各地の美術館の展示を観ているうちに現代アートに興味を持ち始めて、作品に写真を使い始めたりしているうちにインスタレーションという表現になっていきました。

 

----------今はペインティングをされていますが、インスタレーションの制作はお休み中なのですか?

 

今は、インスタレーションはお休み中ですね。というより、永遠に封印中ですね。(笑)

 

----------申請書には、山や自然についてのリサーチと伺っていたのですが、実際に滞在されていた間はずっと山などへ行かれていたのですか?

 

そうですね。藻岩山は十数回登りましたが、山などだけではなくて街中も良く行ってました。街も『自然』だと思っているところがあるので、人間がつくった『自然』を通して、山を見る、といったような。ぼくは街に住んでいるのでその見方が一番良いのかなと思っています。

 

----------なるほど。山にはなにかエピソードはあるのですか?

 

十数年前韓国に行ったときに、韓国の山と九州の山は丸っこくて似ている印象なんですが、九州は湿度が高いけど韓国は乾燥しているからか、形は似ているのに印象が違って見えたんです。

似たようなものを見ているのに、間に湿度とかフィルターのようなものが挟まると違って見えるんだったら、じゃあ「イメージってなんだろう?」みたいな疑問が湧いてきて。じゃあそのフィルターを取り払った直接的なイメージはみんなの共有財産でいいんじゃないかと思うようになりました。作品としては具象と抽象の両方を要素を持っているんですが、その間のフィルターを取り払い、イメージを直接伝えるようなことを作品の中で成立させたいと思っています。

 

----------篠塚さんの作品はずっと自然を?

 

そうですね。自分が生まれ育った熊本や阿蘇の火山や緑の影響が強いです。すこし話は脱線するんですが、2012年からドイツで一年間暮らしていたときに色んなアーティストに出会ったんですが、彼らは自分の生まれた土地で暮らすことや、その土地に対する思いを強く持っていて、ぼくも自分が生まれた熊本に戻って制作しようと思い日本に帰ってきました。私も生まれた土地の自然の影響が強かったですから。まあ、お金が無くなったのも一番の理由ですが(笑) ただ熊本の自然を身近に感じながら生活していると、日本にも色んな土地があるわけだから、広い意味で生まれた土地にこだわるのだったら熊本じゃなくてもいいのかなと考えるようになりました。それからあちこちの場所を旅しています。

 

-----------その流れで札幌へ来たのですか?

 

はい。札幌は程よい広さでいいですね。熊本だと街中を3回往復したら「昨日、お前あそこでなんばしよったと?」って言われてしまうくらいコンパクトなので。(笑)

行った土地で感じたものを感覚的にストックしながら自然と作品に反映されることが理想です。特に何を見ようとか、何を感じようとかは決めずに自分に残るものだけを大切にしています。

 

----------では、そのときは特別スケッチなどはせずに、まず情報などを自分の体に溜め込んで、後日改めてアウトプットするような感じでしょうか?

 

そうですね。滞在中は簡単なドローイングをしていました。ただ、そういったドローイングは全て捨ててしまうんです。以前は保存していたのですけど、数年前から、手元に残らないほうがいいんじゃないかと思ってそうしています。

 

----------今回は実際にドローイングなどを拝見できず残念です、、、では、ドローイングはあくまで本番にむけてのトレーニング的な意味で?

 

はい、僕がやっているのはそういったものです。今回の滞在ではその他にキャンバス下地の実験をしていました。

 

----------今回の滞在を元に制作された作品は今後どこかで発表される予定はありますか?

 

残念ながら発表は札幌ではなく東京なのですが、2016年2月からANDO GALLERYで個展を開催するので、そこで発表したいと考えています。

 

-----------どのように北海道の山々が描かれるのか楽しみですね!機会があればぜひ札幌でも展示していただきたいです。

 

篠塚聖哉  Sinotsuka Seiya

※1…インスタレーション
1970年代以降一般化した、絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。