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【こどもアート体験事業】札幌市立南小学校×斉藤幹男活動レポート

2022/03/29

2021年11月、石狩市立厚田学園での活動を終えたアーティストの斉藤幹男は、活動の舞台を札幌市立南小学校へ移し、ここで約半年間に及ぶ長期間の活動を展開することになる。

*石狩市立厚田学園の活動レポート(前半):https://onl.tw/MeLiyU5

*石狩市立厚田学園の活動レポート(後半):https://onl.la/1wWG7j2

 

活動初日。校内放送でのご挨拶。新型コロナウィルス感染防止のため、校内放送を活用した行事が定着している学校の状況をまずは目の当たりにする。子ども達や先生方との交流はどの程度可能なのか、そもそも何がどこまでできるのか、この時点ではおそらくアーティストの頭の中にも具体的な活動イメージはなかったものと推測する。

 

活動当初、アーティストが活動を行うためにお借りした空き教室に入ると、黒板に子ども達からのメッセージが書かれていた。いつ書かれたのかは謎である。

斉藤さんは、誰が書いたかわからないこのメッセージを見て、未使用の学習机を組み合わせた大きなテーブルと、自由に絵や文字が描ける紙とペンを用意した。ここに集まってくる子ども達が、何気なく描いたものや文字(文章)を手掛かりに、直接的な会話だけでは得られない子ども達の日常の様子を探いくのだという。

 

休み時間になると、4階に用意されたアーティストの教室には、同じ階の6年生と4年生がちらほら顔を出す。メッセージを書いてくれたのは6年生の8〜9人からなるグループだったことがわかった。この種の活動に6年生が積極的に関わることが少ない為、この行動に斉藤さんは深く興味を抱いたようだ。

 

斉藤さんは、週に一度学校に訪問することを決めた。使用する教室は、アーティストが不在の日でも、子ども達はその教室を出入りすることが許されることになった。教室は、日々子ども達が描いた落書きで溢れていく。様々な活動が制限される昨今にあって、子ども達の日常のコミュニケーションの変化に注目した斉藤さんは、そのアクションに対するリアクションとして、子ども達が何気なく描いたイラストや文字を素材に、アニメーションを制作し投影したり、壁紙として活用したり、教室のしつらえを変化させ、それを見た子ども達の反応を観察するということを繰り返していった。



 

そうした活動を通して発見したとても興味深い点が、普段の授業や行事の様子を伺うと、とても落ち着きがあり真面目に取り組んでいる子であればあるほど、この教室で繰り広げる発言や行動、落書きの内容とのギャップが激しいということであった。どちらが本質なのかはわからないが、そうした振り幅のある態度や振る舞いをする子ども達の手によってより異質な空間へと変化していった。

 

また、アーティストと子ども達の交流の場として解放されたその教室は、当初から規制やルールが存在していなかったわけだが、子ども達の中には、自ら教室の使い方を考えたり管理する意識が働く場面が見られるようになり、通常の学校での活動や学級での立ち振る舞いとは異なる自己の解放が許された「居場所づくり」へと発展していったのではないだろうか。


 

活動終盤には、その現象や実態を数名の教職員の方々と共有する機会を得た。私たちが観察してきた子ども達の状況とこの教室の変化その中でアーティストと子供たちの中で構築された関係性が、現在学校に求められている様々な課題と今後の学校のあり方にとって、どのように受けとめられ、どう機能していると感じたのか知る必要があったからだ。

 

様々な考察の中で議論の中心となったのは、やはりコロナの影響という問題であった。
通常の学習以外の部分でも「子ども達のために」という目的で行われてきた行事や教育プログラムのほとんどが制約される状況の中で、ただでさえ少ない余白が失われたことの閉塞感は、外部から関わる私たちにとって想像以上のジレンマを抱えていることが理解できた。

 

ある教職員は「この教室に限らず、自分の教室でももっと自由に振る舞ったり、遊ぶ時間があってもいいはず。」と語った。よくよく話を聞いていくと、クラスに馴染めず教室にいられない子、周囲の顔色を伺い自己主張をしない子、誰かが始めるまで自分からは積極的にチャレンジしない子など、集団の中で自らの意志や感情を積極的に表現するような立ち振る舞いには極めて抑制的である子ども達の実態が浮かび上がってくる。

 

また、友達の考え方が以前とは変わってきたとう意見もあった。信頼関係が構築されているか否か、相性が良い悪いという判断のもとに友人関係が成立しているわけではなく、昨今では「みんな友達」という考え方が強制されているようにも感じると言う。その中に、お互いの悩みや欠点を認識してもなお心地の良い関係でいられるような友人関係が構築されている子たちはどれだけいるのだろうか。

そうした現状にあって、子どもたちがアーティストのいる教室に通い詰め、普段は抑制的であるはずの自己を解放・主張していた理由としては、アーティストが「評価しない人」であったことが大きいと言う。学年が進むと、教職員や同級生からの評価(見え方)を気にしながら行動する子どもが増えることは一般的に珍しくはない。社会性の一環としてそうした態度・振る舞いを身につけていく過程の中で、自己の主張や表現を抑制するいわばブレーキが機能するようになる。ただ、特に小学校という場において自分と他者との関係が「評価する人」と「評価される人」の対立構造でしか認識されていないとしたらそれはあまりにも息苦しいくつらい(実態はそこまで極端な状況ではないと推測するが)。
いずれにしても、普段接する大人とは異なる態度や考え方を持った人物(アーティスト)の立ち振る舞いは、「アーティストは怒らない。」「この教室ではいろんなことが許される。」という子ども達の意見に反映されているとおり「評価しない人」の存在がこの教室の居心地の良さにつながっていたのだろう。

 

しかしながらそれらは、新型コロナウィルス感染拡大という未曾有の事態に陥ったことが全ての理由なのだろうか。

教職員の方々との対話の結果、私たちは、時代の変化によって引き起こされてきた問題が、新型コロナウィルスの感染拡大という事態によって顕著に現れてきているという状況を受け止め、この機会にこれまで疑いなく推し進められていた価値を捉え直すことで、学校のあり方を再考するチャンスなのではないかと強く実感するに至った。

アーティストが子ども達との異質なコミュニケーションの先に生み出された不思議な空間は、今後も南小学校の子ども達の居場所として活用されることが予定されている。そして今回の活動を通してアーティストと子ども達が構築した関係性は、次年度以降どのように変化し、それぞれにとっての新たな学校像を形づくっていくのか今後も観察していきたい。

最後に、様々な制限が強いられる中、積極的に学校に訪れコミュニケーションの形を模索していただいたアーティストの斉藤さん、そして約半年間に及ぶ活動を受け入れていただいた札幌市立南小学校の全ての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!

コーディネーター:漆

【アーティスト紹介】
斉藤幹男 (さいとうみきお)
1978年札幌市生まれ。ドイツのシュテーデル美術大学卒業。 手描きの 絵によるアニメーション、写真、CGなど様々な種類のイメージを組み合 わせ、アナログ・デジタル双方の魅力を引き出す映像作品を主に制作し、 国内外のギャラリーや美術館等で作品を発表している。

【こどもアート体験事業】
主催:公益財団法人北海道文化財団
協力:おとどけアート実行委員会/札幌市立南小学校学
コーディネート:一般社団法人AISプランニング