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【こどもアート体験事業】石狩市立厚田学園×斉藤幹男活動レポート(後半)

2022/01/10

石狩市立厚田学園でのこどもアート体験事業の活動は、斉藤さんが突然「行灯つくろうかな、、、。」とつぶやいたことから、思いもよらない方向へと展開していく。
*活動の前半レポートについてはこちらから

    
https://onl.tw/MeLiyU5

当初から様々な手法で厚田という地域を調査してきた斉藤さんは、コロナ禍で中止になった様々な行事が、どのように始まり、子ども達や地域の方々にとってどのように受けとめられているのか、関心を寄せていた。同時に、かつて行われていた行事が今なぜ行われていないのかについても興味があったようだ。



*かつての行事の様子


「行灯」の制作は、厚田地域の特に中学校において伝統的に取り組まれてきた活動で、始まりは定かではないが、仮装行列や神輿のパレードなどを原型に形を変えながら記録では平成20年ごろまで続いていたことが厚田学園に残されて入る資料からわかっている。最盛期は、青森県弘前市の「ねぷた祭り」で稼働する扇型の行灯が主流となり、体育祭の前夜祭や地域のお祭りに合わせてお披露目されていた。しかしその後、何かのタイミングで作られなくなったようだ。



*かつての扇型の行灯のパレードの様子



少子高齢化が進む地域にあって、担い手不足という問題と、学校の統廃合の流れが、各集落で伝統的に行われてきた行事やお祭りをも淘汰していくことに拍車をかけているのだろうと推測できる。
そうした中で「行灯」は、10数年前まで確かに行われていたことによって、それぞれの世代・立場で思い入れに違いがある。もちろん現在厚田学園に通っている子ども達は、その存在を全く知らない。一方で、子ども達の親世代は、中学生時代に行灯の制作に関わったことがある。また現在の教職員は、行灯の存在は知っていても制作に関わったことはない。そして地域の特に年配の方々は、ごく最近まで地域のお祭りを彩る伝統的なものとして意識に刻まれていることがこれまでのヒアリングで明らかになっている。
斉藤さんは、それぞれの世代にとって学校で行われる行事や地域のお祭りがどのような意味を持つのかを考えるために、その象徴として「行灯」の制作を考えたようだ。
さて、その行灯制作であるが、まずは厚田学園にある資料から作り方を調べるところからスタート。幸いにも、美術の指導にあたっている先生が、かつて厚田中学校の教員時代に行灯制作に携わっていた経験があることがわかる。おかげで骨組みの細部の作り込みなど資料ではわからない部分を教わることができ、いたってシンプルな作りではあるが、試作段階では、扇型の行灯の再現に成功した。



*行灯作りの指導を受ける斉藤さん



*試作品の完成

そして、斉藤さんは、本格的に行灯の制作に取り掛かる。
木工作業は特別得意分野ではないという斉藤さんだったが、数日かけて骨組みを完成させた。

さぁ、後は行灯を彩る絵をどうするかである。
斉藤さんは予てから、子ども達との自然な交流から様々な情報を得たいと考えていた。その考えは、この行灯制作にも反映されることになった。
特別なテーマやモチーフを設定せず、子ども達が描いてみたい物事を自由に描いてもらう。そのキャンバスが「行灯」であり、厚田の「今」を象徴するものだと考えたようだ。

休み時間などを使って子ども達が続々と絵を描きにやってくる。授業の枠組みにはない自由度とサイズ感に子ども達の「楽書き」が爆発する。
そして、それぞれが描いたものが行灯に設置されると、不思議なことにいつもとは違うコミュニケーションが生まれることがわかった。何を意図して、何を描いているか、本人に確認しないとわからないものだらけだから当然と言えば当然である。
こうして、厚田の今が描かれた世界にひとつだけの「行灯」が完成した。



*完成した行灯

おそらくこの行灯は、ものとして、作品としての意味はそれほど重要ではなく、その存在を介して、それぞれの立場での体験や思いを交換する装置として機能することが重要なのだと考えられる。



*学園内でのお披露目会の様子


*学園内でのお披露目会の様子

行灯のお披露目は、学園内での活動最終日に披露された後、「道の駅:あいろーど厚田」で約1ヶ月間展示された。その後、厚田支所の総合保健センターのロビーに移設し現在展示中である(2022年3月ごろまで予定)。



*《道の駅:あいろーど厚田》での展示の様子

また、今回の活動で出会った地域の方とは、来年の夏のお祭りにこの行灯を改めてお披露目しようという計画もしている為、しばらくは地域の至る所で展示を行う予定となっている。

約2ヶ月間の活動の中で、厚田に住む多くの方と出会い、その中で生まれた「行灯」をめぐり、このプロジェクトは、まだまだ続いていくのである。
コロナ禍で大きな価値転換を迫られる昨今にあって、厚田の過去と現在をつなぎ未来を考える象徴的な存在として学校関係者のみならず、厚田に住む多くの方々の目に触れることを期待したい。

コーディネーター:漆

【アーティスト紹介】

斉藤幹男 (さいとうみきお)

1978年札幌市生まれ。ドイツのシュテーデル美術大学卒業。 手描きの 絵によるアニメーション、写真、CGなど様々な種類のイメージを組み合 わせ、アナログ・デジタル双方の魅力を引き出す映像作品を主に制作し、 国内外のギャラリーや美術館等で作品を発表している。

【こどもアート体験事業】

主催:公益財団法人北海道文化財団

協力:石狩市立厚田学園/あいろーど厚田/厚田支所

コーディネート:一般社団法人AISプランニング