2024年度(令和6年度)札幌市文化芸術創造活動支援事業Support
概要・目的
2022年度、本支援事業ではアーティストの創作活動領域を拡張・拡大するための支援と、その活動を支える人材育成及びネットワーク構築を実現する為に、下記のプログラムでアーティストを募集し支援を実施しました。
支援内容
1)表現活動支援プログラム
様々な芸術分野において表現活動を行うアーティスト(又は団体・グループ)を対象に、展覧会、演劇公演、コンサート、ワークショップ、アウトリーチ活動などを普段フィールドとしている以外の場所(既存の文化施設以外の場所、例えば商店街、小学校、児童館、子ども食堂、福祉施設など)で展開する為のサポートプログラム。これまでの活動ではつながりのなかった分野のコミュニティーとの接点を作り、表現活動や交流活動を通じて新たなファンの獲得や活動を継続・発展させていく為の関係者とのつながりを生み出すことを目的として実施。
2)創作活動支援プログラム
表現活動を行うアーティスト(又は団体・グループ)を対象に、創作過程をサポートする目的で、アーティスト・イン・レジデンス(以降AIR)の手法を用いるサポートプログラム。AIS プランニングが2014
年より札幌市の委託を受け管理運営している「さっぽろ天神山アートスタジオ」において、同施設AIR ディレクターが数多くの国内外のアーティストの活動を蓄積し、情報・資料をデータベースとオンサイトで
館内公開している「アートとリサーチセンター」内のアーカイブや資料、これまで文化庁支援を受けて培った道内ネットワークを活用して、アーティストによる北海道内のリサーチ活動を含む創作過程のコーディネートを行う。
3)コーディネート人材育成プログラム
表現活動支援プログラム及び創作活動支援プログラムにおいて、アーティストのサポート側となる受け入れ団体や連携機関に所属している人材や、アーティストの表現活動や創作プロセスに関心がある個人の中から、将来的に当支援プログラムのコーディネーターとして機能していく人材の発掘と育成を行うプログラム。
当プログラムへの参加者は、コーディネートに関するノウハウを研修会や活動現場(アーティスト・イン・スクールなど)への見学・体験を通じて学び、「アートを社会と接続させる為のコーディネートスキル」を身に付ける。また、定期的なミーティングを開催し、参加者同士が、互いの課題や成果を共有する機会を生み出し、各自のコーディネートスキルの向上と関係性の強化を図っていく。
2024年度支援対象者と活動記録
アーティストの創作活動を通じた新たな価値創造支援プログラム

来田玲子
【審査員コメント】 ・進藤冬華(アーティスト) 死というテーマに向き合い、自分のものにしていると感じました。それは、今後も更なる発展を期待させます。子供や若い世代に向けたイベントや企画をしたいとのことでしたが、普段、死について考えることが少ない人々に対して、掘り下げて考えたり、向き合うことをどう促していくのかは課題かもしれません。また、参加者にとって本当に充実した機会になる可能性がある一方で、苦しい時間を強いる可能性もあります。企画への参加者や観客との交流は、来田さんがこれまで死に真摯に向き合ってきた経験と蓄積が試される 1 つの機会になるのではないでしょうか。 ・宮崎隆志(北海道文教大学人間科学部地域未来学科) 死後を改めて問わねばならないのは、私たちが死と生が二分された社会に生きているからですが、それはかつては死後の世界をも含んでいた精神世界の収縮をもたらしました。そのように考えれば、何が死と生を二分するのか、そのように二分する作用は現代に生きる人たちの精神世界をどのように変容させ歪めているのかを問うことが、死から生を問うことの隠れた主題であるように思います。生の省察が現代社会の省察につながるような作品を期待しています。 ・佐野和哉(株式会社トーチ代表) 「死」という具体的な、かつ誰もが直面するような、最近も議論が活発なテーマにフォーカスしているのがとてもいいなと思いました。スペキュラティブデザインとも相性がよく、大きな可能性のあるテーマだと思います。ただ普遍的であるがゆえに、自分がなにか確信を得て掘り下げられるもの、貫き通すことができるものがないと、どこかで壁にぶつかってしまうかもしれません。スペキュラティブデザインに関連して活動している人は多く見てきているので、コーディネートによる伴走の中でなにかいい形を見いだせるよう、応援しております! ・漆崇博、小林亮太郎(一般社団法人 AIS プランニング) 人が抱える普遍的なテーマであるが故に、他者に問うことが困難な側面を持ち合わせております。 本支援事業が単に活動を資金的にサポートする助成プログラムではなく、共に考え乗り越えていくためのコーディネートに力点をおいている取り組みとして支援する我々自身も試されるチャレンジングな提案であると感じました。 どこから手をつけていくか、何を突破口にしていくか、今後の議論が楽しみです。 ・札幌市文化部職員 「死」を焦点を当てた作品制作や活動について、決して一般的なものとは言えないかもしれませんが、受け手がどのように考えるか等についても考慮し、ご自身で課題感を持った上で新たな活動にチャレンジされている印象を受けました。一方、このような事柄に向き合える機会はそう多くなく、作品等に触れた人にとっては自身の生き方等を考えるきっかけにもなるかと思いますので、ぜひ活動の幅を広げていただけますと幸いです。
宮本一行
【審査員コメント】 ・進藤冬華(アーティスト) 宮本さんの視点で新しい土地である北海道を不要な物と音を通じて捉えようとする視点や方法に驚きがありました。ただ現在の制作環境において、必要な人材、情報、設備など状況がすでに揃っているようにも感じ、アイスプランニングの伴走を含めたこのプログラムへの参加が新たなチャレンジに繋がり、宮本さんにとっての未知の領域への一歩となることを願っています。 ・宮崎隆志(北海道文教大学人間科学部地域未来学科) サウンドスケープというアプローチに可能性を感じました。息を吹き込む行為が新たな生命を吹き込む行為として意味づけられていますが、廃棄されたモノつまり生命なきモノが声を発するようになれば、日常の空間は確かに立体的に、場合によっては批判的に捉え直されると思います。但し、個々のモノの声(音)は、「(音)風景」という文脈性の中に位置づけられなければ、その意味は読み取れないように思います。「(音)風景」を構築するための方法や過程がさらに詰められることを期待しています。 ・佐野和哉(株式会社トーチ代表) すでにさまざまな制作の実績があったうえで、北海道でこれまでにない接点を持ちながら制作の幅を広げようとしているのが素晴らしいと思いました。大学でも企業連携などの予定があるということですが、こうした機会にコーディネートによる伴走を受けつつ、さまざまな団体や市民の方々との関わりから新しいものが生まれていくことを期待して、応援しています。 ・漆崇博、小林亮太郎(一般社団法人 AIS プランニング) 過去の活動や作品による実績、現状の制作環境、そして今後の構想など充実した活動状況にあると推測する一方で、北海道での創作において今ひとつ発展性に欠ける「何か」を模索されている印象を受けました。 手元にはない新しい情報、人、コミュニティとの出会いをきっかけにもう一歩ステージを上がろうと苦心されていることが、コーディネート支援を必要とする切実さにつながっていると理解しました。 具体的なアプローチ方法やイメージはある一方で、実現性や計画性にやや乏しい部分もありますのでその点を中心に最大限サポートできればと考えています。 ・札幌市文化部職員 これまではご自身の作品制作を中心に活動されていたところ、清掃ワークショップ等といった地域住民との繋がりを作ろうと試みる点が新たなチャレンジであり、ぜひ取り組んでいただきたいと考えております。また、完成した作品を展示するのはもちろん、例えば、制作過程について触れる機会を設ける等、地域や他者との接点をさらに作っていただけると、文化芸術による地域への価値還元の観点からも非常に素晴らしいのではと感じました。
きたまり
【審査員コメント】 ・進藤冬華(アーティスト) 戦争と性、ティーンエイジャーの組み合わせがチャレンジングだと思いました。このプログラムを通じ、戯曲と向き合い、参加者や関係者の理解と信頼、協働を促すことは大変なことかもしれませんが、何が重要かを理解していた様子から、柔軟に活動を進めることができるのではないかと感じました。また既存の舞台での発表にこだわらず、様々な場所や方法で公開することに興味が向いていることも札幌のような地方都市の状況に合うように思いました。 「ダンスを通じ自分の体と関わり、大切にすることが、他者を大切にすることにつながる」というきたまりさんからの力強い言葉に期待しています。 ・宮崎隆志(北海道文教大学人間科学部地域未来学科) 身体の次元から自分の存在を問い直す過程に焦点を当てられていると理解しました。「戦争や虐殺、ジェンダー問題」に心を痛められてきたと述べられていますが、それは人間存在を軽んじて身体を道具化したり、モノとして蔑む振る舞いに対する批判意識に基づくものと拝察します。その主題に迫るには、無意識のうちに自らの身体を制約していることへの気づきと、解放された身体に基づく対話的関係の探求が必要になると思われます。戦争や性などの多様な切り口が考えられますが、どの切り口から入れば上述の過程を構成しやすいのかを検討して下さることを期待します。 ・佐野和哉(株式会社トーチ代表) これまでの活動の積み重ねから、今回チャレンジしたいポイントと対象が具体的になっており、それがしっかりとこれまでアプローチできていない部分への挑戦になっていることにとても可能性を感じました。 プロセスが重要であるとおっしゃっていましたが、アウトプットの形はここからまだまだ検討が必要な部分かと思いますので、コーディネートによる伴走を受けつつ、世の中の関連がありそうな事例を参考にしながら、いいアウトプットにつながるいいプロセスを踏んでいくことを応援しております!もちろんお力になれることがあればご助力させていただきます。 ・漆崇博、小林亮太郎(一般社団法人 AIS プランニング) これまでのご自身の活動を新たなフェーズに押し上げようとする意欲に満ちた内容で特に若年層(学校等のコミュニティ)へのアプローチに関して課題をしっかりと認識されており、本支援事業の最も重要なポイントであるコーディネートを必要としている切実さが伝わる内容でした。 テーマや題材としている活動を推し進めていくには、ハードルが高い部分もあると思われますが、それこそが挑戦です。今後の展開においては優先順位をある程度明確にし、慎重かつ柔軟に、一つひとつ乗り越えていくプロセスをお手伝いさせて頂きたいと考えています。 ・札幌市文化部職員 ご自身がこれまで行ってきた活動からさらに一歩チャレンジされるという点、また、事業実施に向けた課題感をしっか りと整理されている点が素晴らしいと感じています。今後事業を進めるにあたり、ご自身の作品や活動に対する想いを大 切にしていただく一方で、受け手の立場や状況等にも視野を広げていただき、ご活躍いただきたいと考えております。